「今やらなきゃ、一生できない」カレーに人生を学ぶ19歳 上池千優

西日本新聞

シン・フクオカ人(12)

 夢中になって進んでいれば、誰かが支えてくれることもある。

 初めて1人で外食したのは、中学2年の時だった。食べるのも作るのも夢中になっていたスパイスカレー。電車で1時間かけて、本で見つけた福岡市南区の店を訪ねた。扉の前でドキドキしたのを覚えている。

 注文した一皿は、評判通りだった。香り豊かで「さすがお店の味」とうなった。自分で作ると何だか粉っぽくて、全体がまとまらず「スパイスの味」になってしまう。勇気を出して、店主に聞いてみた。

 「おいしく作るこつってありますか?」

 上池ひろ(19)の「カレー人生」は、この店から始まった。作り方から、おいしい店やイベントの情報、年齢を超えた仲間まで一気に広がった。月3千円のお小遣いをやりくりして食べ歩いた。

 中学を卒業し、福岡県内の単位制高校に進んだ。アルバイトができて、昼間に食べ歩くこともできる。バイト代をためて大阪や東京にも「遠征」した。

上池千優さんが13歳の時に書いていた日記。「カレー熱」が伝わってくる

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 中でも通い詰めた店がある。同県中間市の「KALA(カーラ)」だ。さらっとした南インドタイプのカレーだが、フランス料理などのあらゆるエッセンスが詰まっている。各地から教えを請う人がやって来て、それを受け入れる「ボス」の人柄にも引かれた。

 自宅からは電車とバスで3時間ほどかかる。土曜の午前5時に起きて店に行き、そのままボスの家に泊まって日曜夕方まで働く。夏休みなどの長期休暇には1週間住み込むことも。そうして1年間、勉強させてもらった。

 「ボスから学んだのは、『基礎があっての応用』ということでした」

 まず、包丁をきちんと研いでおく。野菜は切り方一つで水分の出方が変わるし、肉も丁寧に下処理をしないと雑味が出る。そうした一つ一つが、仕上がりを左右するのだ。

 スパイスカレーはブームとなって久しい。スパイスの組み合わせにより無限大にアレンジできる「自由さ」が魅力で、福岡でも新規出店が相次ぐ。ただ、和食料理人などのように下積みを経験することが少ないため、基礎が見落とされやすい。

 自分も中学時代は、組み合わせの「正解」を探していた。でも「何をやるにしても基礎がしっかりしていないと、発展も進化もない」と気付かされた。

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店の厨房を借りてカレーを作る上池千優さん

 来春、20歳を迎える。これまでの「趣味」に一区切りをつけて、カレー店を開くと決めた。背中を押してくれたのは母だ。

 いつか実店舗を、と頭の片隅にはあった。でもイベントなどでカレーを振る舞う機会は、今だってある。仲間も「店はいつでも持てる」と言う。カレー以外のことも経験したい。みんなも進学しているし、専門学校か大学に進もうか-。迷っていた時に、母の一言が響いた。

 「それが本当にやりたいことなの? やりたいことを先に延ばす意味はあるの?」

 とはいえ、いきなり店を始めて駄目だったら-。尻込みしていると、母は重ねて言った。

 「本当にやりたいなら、誰かに頼って助けてもらったら? 頼られたら、人はうれしいと思うよ」

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 その言葉をかみしめて考えた。

 自分は人にやってもらうことを期待して「甘える」のは苦手。でも「頼る」は違う。思いを共有して助けてもらう、自ら動いて実行することだ。

 これまでバイトをしたり、イベントに参加したりしてきたけど、1人の力では何もできなかった。誰かと一緒にやれば、より大きなことができるし、幸せもシェアできる。

 先延ばしするのは、失敗が怖いからだ。いま一歩踏み出さなければ、一生踏み出せない。

 「そうそう。やってみて駄目だったら、今じゃなかったってだけ。そのときは考え直せばいいじゃない」。母のもう一押しで心は決まった。

 今は前進あるのみ。カレー人脈をたどって物件を探し、福岡市内に出店することにした。店名は「Curry Toiro(仮)」。人の個性が十人十色であるように、スパイスそれぞれの魅力を引き出したい。

 「それに、やっぱり『人』に尽きると思うんです。お客さまも含めて店だから、一緒につくりあげていきたい」

 そんな空間で、カレーの価値観が変わるような瞬間を提供できたらと思っている。

 =敬称略(山田育代)

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