『廃市』大林宣彦が描く「愛の混線」、水郷・柳川と響き合う

フクオカ☆シネマペディア(14)

 尾道3部作など地域に根差す映画を数多く残し、今春亡くなった大林宣彦監督には、九州ゆかりの作品もある。旧家の婿入り当主と妻、その妹の三角関係の機微を描いた福永武彦原作の「廃市」(1984年)の舞台は、水郷・柳川(福岡県)である。

 大学生江口(山下規介)は、一夏の卒論執筆の投宿先として訪ねた旧家・貝原家で、まだうら若い安子(小林聡美)に出迎えられ、接遇される。安子の姉、郁代(根岸季衣)とその夫で当主の直之(峰岸徹)は住んでいない。

 江口は夜の部屋で、女性のすすり泣きを漏れ聞く。誰なのか。安子らに接する中で、複雑で微妙な姉妹らの関係が徐々に浮かび上がってくる。

 その家は広々として奥行きがある。全ては見えない光と闇の部屋。掘割の水音が響き、月光を受けて揺らめく水面の光が部屋を照らす。そうした映像は、謎解きミステリーのようであり、どこか、ただならぬ事態の予兆のようでもある。

 郁代のもとに直之が婿入りしてきた時、安子はまだ学校に通っていた。安子は無邪気に直之を慕って、たびたび一緒に遊びに出る。狭い世間だ。2人の男女関係を疑った、あらぬうわさが広がる。

 郁代は、夫は自分より安子を愛していると思い込んだ。夫に対する妹の恋心にも気付いている。なんと、夫と安子を置いて1人で家を出て身を引き、寺にこもってしまうのだ。

 妻としてのプライドはある。愛されていないのに妻の座に収まっていられない。母親を早く亡くした姉妹の姉として母親代わりで安子を見守ってきたから、妹の幸せを願うのもまた偽りのない気持ちなのだ。

 直之は妻の家出にショックを受け、家を出る。郁代を愛しているのに信じてくれない。仕事もうまくいかず、母性豊かな別の女性と暮らし始める。

 だから、安子が旧家を切り盛りする。姉を案じ寺に通う。直之は姉を愛していると思いつつ、ひそかに思いを募らせる。直之が姉を諦めるなら、同居中の女性から彼を奪いたいとまで思うのだ。そんな難しい関係が行き詰まった先に、事件は起きる。

 姉妹は微妙な距離感がある恋敵だが、深いところではつながっている。お互いを案じ、譲り合う先で幸せをつかめない。その不器用さが次第にいじらしく見えてくる。ある種の美しさが姉妹に宿っているのに気付いて、じわじわと感動してくる。

 安子が江口を舟で送りつつ、姉妹と直之の来し方を振り返る場面がある。水面の水草は万象を描いて浮かぶ。白い花をいくつか付けた水草の脇を、舟は進む。その詩的な映像は姉妹らの心象を映すのか、人間模様を黙示するのか。

 純日本的な家並みを川面に映し出して静かに流れる美しい水郷と響き合って、大林監督のアーティスティックな世界がしっとりと広がっている。 (吉田昭一郎)

※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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