香港から消える抗議の痕跡 日本人教員が見た大学生たちの変化

西日本新聞 国際面 坂本 信博

 【北京・坂本信博】香港の反政府活動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)の施行から今月末で半年。香港の高度な自治をうたう「一国二制度」の形骸化が指摘され、民主派の弾圧が進む中、反政府デモに参加してきた学生たちにどんな変化が起きているのか。香港の大学で教壇に立つ2人の日本人教員が西日本新聞の取材に応じた。

 「香港がたった半年で一変するとは思わなかった」。香港科技大で助理教授を務める経済学者、川口康平さん(38)は振り返る。

 国安法施行後、法制化を祝う「慶賀国安法」という旗が香港各地に掲げられた。「以前ならすぐ落書きされたはずなのに、誰も手を付けず、ずっときれいなままだった」(川口さん)。少し前まで香港政府への抗議運動は日常風景だったが、11月11日に政府が民主派議員の議員資格剝奪を決めた際もデモは皆無だった。

 「若者たちの運動の痕跡すら消えた」と川口さん。自由、人権、人民に力を―。民主化デモへの応援メッセージを壁に貼り付けた「レノン・ウオール」が昨年は繁華街コーズウェイベイ(銅鑼湾)など至る所にあった。しかし、公共の場からすべて撤去された。

 川口さんの勤務先の香港科技大は昨年11月、香港政府への抗議活動中に男子大学生が転落死し、複数の大学に学生が籠城する事態につながった“震源地”。追悼の場だった構内の掲示板も、現在は何もない。

 学生たちが国安法や民主化について議論する光景も見かけない。「誰がどこで聞いているのか分からないという警戒感と、何をやっても無駄というあきらめがない交ぜになっている」と川口さんはみる。

   ◆    ◇

 社会心理学などが専門の香港城市大副教授、小林哲郎さん(42)は6月、英国の調査会社に香港市民の世論調査を依頼したところ、「国安法は安全強化のために必要」「香港の自由を破壊するので不要」という質問項目が「国安法に抵触する恐れがある」と調査会社から修正を求められた。小林さんは「何が国安法違反か明示されず当局が恣意(しい)的に運用できるので、手探り状態。いつまで自由に研究ができるか」と語る。

 香港の林鄭月娥行政長官は11月25日、立法会(議会)で施政方針演説に当たる「施政報告」をした。具体的な経済政策が盛り込まれるため、多くの市民が関心を寄せるが「今年は学生の間でほとんど話題にならなかった。今の政治・司法システムに絶望している学生が多い」(小林さん)。

 香港ではデモの権利自体は香港基本法で認められている。しかし、香港政府は新型コロナウイルス対策を理由に、公共の場で3人以上の集会を禁止。デモの際に学生たちがバリケードに使っていたガードレールは、取り外せないように加工した。抗議活動を再燃させないよう、あの手この手で封じ込めを図っている。

 ただ、世論調査では、穏健な支持層も含めれば市民の半数が民主派を支持しているとされる。「行動や口に出せないだけで、不満は着実にたまっている。一方で、親中派の人々にもコロナ対策を巡って香港政府への不満が根強い」と小林さん。香港ではコロナの再流行が続いており、今月2日から全ての小中高校が登校停止となった。

 小林さんは言う。「コロナを完全に抑え込めば合法的なデモまで禁止する理由がなくなり、コロナが落ち着かなければ政府への不満は高まる。香港政府はジレンマに陥っている」

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