LOVEが反抗になる時

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 ロックの精神とは「反抗」か、それとも「LOVE&PEACE(ラブ・アンド・ピース)」か。ロックファンが長年議論してきたテーマである。私自身は「反抗」派だが、LOVE派の勢力もあなどれない。

 ただしこの議論はおおむね夜の酒場で、しかも双方が酔った状態で交わされるため、まず実のある議論にならないのが残念である。お互い自分の言いたいことを言うだけで、相手の話など聞きはしない(これもロックファンの特性だ)。

 そして翌日、二日酔いの頭でこんなことを考える。

 「そういえばジョン・レノンって、反抗とLOVEの両方だよな…」

 ジョン・レノン(1940~80)。英国リバプール出身のロックミュージシャン。ビートルズのメンバー、解散後はソロとして60~70年代の音楽に、そして世界の若者の考え方と行動に大きな影響を与えた。彼がニューヨークで凶弾に倒れてから、8日でちょうど40年となる。

   ◇    ◇

 ジョンが「イマジン」を発表したのは71年。ソロになって2枚目のアルバムに収録された。「想像してごらん、天国などないと」で始まるこの歌は、宗教や国家、所有欲を否定することで、人々が争いなく暮らすユートピアの実現を呼び掛ける内容だ。

 ロックの思想が「LOVE&PEACE」であるとすれば、その代表曲と言って間違いない。音楽評論家やファンに「ロック史上最も重要な曲は」という趣旨のアンケートをすると、必ず上位に入る曲である。

 一方、その翌年に出したアルバム「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」には「反抗」が満載だ。1曲目が「女は世界の奴隷か!」。女性が不当に低い立場に置かれている状況を告発する歌だ。黒人差別や英国の北アイルランド弾圧なども取り上げ、収録曲の多くが政治や社会の抑圧への抗議の色を帯びている。

 ちなみに4年前の日本で、反戦運動をリードする若者のロックフェスティバル出演を巡り、一部から「音楽に政治を持ち込むな」と反対する声が上がった。70年代のジョンを知るロックファンとしては苦笑するほかない出来事であった。

 75年にオノ・ヨーコさんとの間に息子が生まれると、ジョンは家事と育児に専念する。撃たれたのは音楽活動再開の直後だった。

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 意外なのは、LOVEの代表曲である「イマジン」がしばしば、放送局による放送禁止や自粛の憂き目に遭っていることだ。

 「イマジン」の発表当時米国はベトナム戦争の真っ最中。「兵士の戦意を喪失させる」という理由で放送禁止になった-とアルバムの解説に記されている。

 2001年米国で中枢同時テロが起きた時も、報復感情に燃える世情に配慮してか、米国のあるラジオ局は「イマジン」を放送自粛曲のリストに載せた。

 社会が何らかの理由で極度に好戦的になると、反戦歌どころか「愛と平和」の歌さえ邪魔者扱いされ、時として敵視されるのだ。

 周りのみんなが軍歌を歌いだしたとき、自分だけ「イマジン」を歌うことができるか-。そこではLOVEを歌うことが反抗となる。私たちが生きているのはそんな奇妙な時代であり、社会だということだ。

 (特別論説委員・永田健)

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