政権とネロナムブル 池田郷

 韓国メディアは、文在寅(ムンジェイン)大統領や革新系与党の独善性を批判する記事の中で「ネロナムブル」という言葉をよく使う。「ネ(自分)がすれば、ロマンス。ナム(他人)がしたら、ブルユン(不倫)」という韓国語の略語だ。自分や身内に甘く、他人に厳しい振る舞いを意味する。

 ソウル中心部の広場は10月の休日、警察車両約300台に取り囲まれた。保守系団体の反政府デモを阻止する目的だった。文氏は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため「政府には国民を保護する責任がある」とデモ自粛要請を正当化。団体側は感染防止策として走行中の自家用車内などから政府を批判する「ドライブスルーデモ」を計画したが、警察は許可しなかった。

 反政府運動を抑えたい権力の思惑がにじむ。文氏は野党代表時代、警察が学校や住宅地周辺でデモを禁じると「集会の自由を制限して反憲法的だ」と批判していた。ダブルスタンダード(二重基準)の印象は拭えない。

 文氏は2017年5月の大統領就任演説で「機会の平等、過程の公正、結果の正義」を誓った。国民の心をつかんだ言葉は、もはや輝きを失った。前法相の親族への利益供与事件、政権と密接な関係にある慰安婦支援団体の不正会計疑惑などが相次ぎ、身内に甘い対応が批判を集めた。

 ただし一部の日本メディアが、文政権のネロナムブルぶりを見下すような目線で面白おかしく報じていることには違和感を覚える。古今東西の政治権力は、大なり小なりネロナムブルだと思うからだ。

 菅義偉首相は野党時代の著書で、民主党政権の公文書管理の在り方を厳しく批判したが、10月刊行の改訂版では削除された。官房長官を務めた安倍晋三政権で森友、加計(かけ)学園や桜を見る会の問題を巡りずさんな公文書管理が問題化したためとの見方がある。

 安倍氏がよく口にした「悪夢のような民主党政権」との言葉も独善的な響きを感じさせる。身内には甘く、敵対勢力というだけで正当な主張も全否定するような姿勢は、国民の不利益になりかねない。日韓に限らず「自国第一主義」という名の独善が世界を席巻しているのも気掛かりだ。

 目下、韓国政界の最大関心事は、文政権の疑惑に切り込む検事総長と、その解任をもくろむ法相のバトルだ。安倍政権が「官邸の守護神」の別名もあった東京高検検事長の定年延長を画策した一件を思い出す。検察トップが政権の敵か味方かは異なるが、いずれも政治権力が陥りがちなネロナムブルな発想の特質を物語っている。 (ソウル支局長)

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