緩和ケア専門・みどりの杜病院10年 「もっと早く来たかった」励み 

西日本新聞 医療面 下崎 千加

 全国でも数少ない緩和ケア専門病院「みどりの杜(もり)病院」(福岡県八女市)が、開設から10年目となった。赤字だった経営は、在宅診療態勢も整え、在宅か入院か選べるようにしたことで「最期まで自分らしく過ごせる」と評判を呼び、黒字回復した。新型コロナウイルスの感染拡大下にあっても家族の付き添いを認めるなど、患者の気持ちを第一にした運営を続けている。

  みどりの杜病院は、地域に緩和ケア病棟がなかったことから、地域がん診療連携拠点病院の公立八女総合病院が330床のうち30床を移管する形で2011年5月、2キロほど離れた田園地帯に開設した。約1万平方メートルの敷地を生かした長屋風の平屋建て(一部2階)で、各個室から自然豊かな中庭に自由に出入りできる。

 完全独立型の緩和ケア専門病院は全国に6施設。うち九州には他に北九州市の聖ヨハネ病院、大分市の大分ゆふみ病院がある。他の診療科の影響を受けることなくゆったり過ごせる良さがある一方、スタッフ確保や給食調理でスケールメリットが生かせない。入院費は定額のため、空床が運営難に直結するという。

 みどりの杜病院は、「死を待つだけの場所」という地域住民の先入観やスタッフ不足で、最初の4年間は15~20床しか埋まらず経営は難航した。15年に就任した原口勝院長が改革に乗り出した。

 緩和ケアを「ぜいたく」とみなして福祉事務所が生活保護受給者の入院を認めなかったケースをきっかけに、1日1800円の施設使用料(テレビ代など)をなくし、受給者や経済的余裕がない人も入院しやすいようにした。医師を倍の4人に増やして在宅診療も始め、「最期は家で過ごしたい」という要望にも応えられるようにした。

 園芸やお茶出し、アロママッサージ、楽器演奏、傾聴などの登録ボランティアは約400人。地域の高齢者の集いで医師らが「病院はより良く生きるための場所」とPRもした。次第に8~9割方の病床が埋まるようになった。今年12月上旬までに入院、在宅合わせて1783人をみとった。

 2年前に63歳の母をみとった岩田文路さん(42)は「全然病院っぽくなかった」と振り返る。母は膵臓(すいぞう)がんで入院。病院は台所を自由に使わせてくれ、母と付き添いの父、岩田さんとその子ども2人の計5人で4カ月間毎日、夕食を囲んだ。母が「自転車に乗れないなんて」と心配していた小学2年の息子は、病院の中庭で猛練習し、上手に乗る姿を見せた。「看護師は付かず離れず寄り添ってくれ、医師は最後の母の言葉を記録してくれたりして優しかった。私も最期はあそこがいい」

 今も3人に限り24時間の付き添いを認めている。原口院長は「最初は『こんなとこ来たくなかった』と言っていた患者さんが、雨や土の香り、スタッフと接し『もっと早く来たかった』と変わっていく。そんな患者さんや家族の言葉が励みになっている」と話す。

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 10年の歩みを記した「地域に展(ひら)く緩和ケア」(1650円、木星舎刊)は書店やインターネットで販売している。 (編集委員・下崎千加)

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