展示会場で裏に隠れてしまう【壱行の歌 認知症を描く】

西日本新聞 医療面

若年性認知症当事者・福田人志さん寄稿(8)

 認知症と診断され、私が1年近くメモ帳に書き連ねていた「思い」が、任意後見人の中倉美智子さんの毛筆ではがき100枚以上になりました。中倉さんは展示会場を探し始めましたが、私は「心の中を人に見られてしまう」と気が気じゃありませんでした。

 地元、長崎県佐世保市のアルカスSASEBOの展示スペースを2015年6月の2日間、借りることが決まりました。肝心の主催者名や展示名はどうするか。俳句でもなく、川柳でもない。1行ほどの思いだから「一行の歌」でどうかな。いや、7画で縁起が良いから「壱行の歌」はどう。主催者名はそのまま「壱行の会」にしたら分かりやすいね-。わずか5分でできた名前ですが、今もありがたく使っています。

 人前に出ることがなくなっていた私は、展示会までの日々を、あいさつや言葉遣い、読み書き、メンタル面の訓練に当てました。見に来てくださる人に失礼のないように、怖がらずに人と会話ができるように。

 でも覚えたことを次の日には忘れてしまいます。「1歩進んで2歩下がっているんじゃないか」。むなしくなることはしばしばです。「こんな情けない姿は見られたくない」「やっぱり恥ずかしい」と決心も揺らいでいました。

 とうとう展示会の日です。出迎えるのは中倉さんとボランティアのキヨカさん、そして私。思った以上に来場者が多く、熱心に見てくれる人もいて、うれしさが込み上げてきました。しかし私は緊張し、声を掛けてくれた人に言葉を返すことができず、逃げるように裏に隠れてしまいました。

 変わりたいのに変われないのは、やつに心を縛られているからだ。やつを退治しないと、私は本当の私に戻れない。だからやつを退治する。

 そのとき誓ったのです。 

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 ふくだ・ひとし 1962年、山口県岩国市生まれ。2014年、51歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断される。15年に「認知症サポート壱行の会」設立。長崎県認知症疾患医療センターに相談員として勤務する傍ら、当事者による全国組織「日本認知症本人ワーキンググループ」理事として政策提言もしている。

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