こどもタイムズ編集部に一本の電話がかかってきました。「こども記者さんから俳優たちに鋭い質問をしてほしい」。電話をくれたのは79年もの歴史がある劇団文化座(東京)。こども記者たちが将棋の王位戦記者会見(8月)で、藤井聡太さんらプロ棋士2人の本音を聞き出す姿をテレビ番組で見たと言います。年明けの公演に向けて稽古中の俳優たちにオンラインでの取材が実現。16人のこども記者が来年1月の公演を前に稽古場を“訪ね”、演劇に込める思いに迫りました。(インタビューの一問一答はこちら)
「だめよ、アキラ君。このかばんはとても貴重なもの」「ハンナは死んじゃったの?」
カメラの前で、仁平天峰さんと佐久間彩さんがせりふを言った。11月末に稽古を始めたばかりの音楽劇「ハンナのかばん」の一場面だ。2人は日本の子どもの役を演じる。今回は俳優15人のほか、指示を出す演出家、衣装担当など25人ものスタッフが約40日間稽古をするという。
カメラの前で劇の一場面を演じる子ども役の仁平天峰さん(左)と佐久間彩さん
物語に登場するハンナという女の子の名前が書かれたかばんについて説明する市川千紘さん(右)と姫地実加さん
「ハンナ」は実際にいた13歳のユダヤ人の女の子。ハンナ役の市川千紘さんが「一つのかばんをきっかけに、国境と時代を超えて東京の子どもたちがホロコーストについて学び、伝えていく物語」と紹介した。
ホロコーストは約80年前の第2次世界大戦中のヨーロッパで起きた悲劇だ。ユダヤ人などという理由で推定600万人が殺された。ハンナもその一人。市川さんは「舞台を見た人が平和とは、生きるとはどういうことか、考える時間になれば」と話す。
体験したことのない歴史が舞台の劇。俳優たちはその時代の人の気持ちを想像し、観客に届けるために映画や本で勉強していた。バスで広島県福山市のホロコースト記念館に行った人もいた。
稽古や勉強を重ねて作品を作る俳優としてやりがいを感じるのは、「拍手と笑顔で観客に迎えられたとき」と姫地実加さん。だけど、今年は新型コロナウイルスの影響で3~6月の公演は全て中止に。その間、俳優たちは家で本を読んで想像力を鍛え、体力づくりをしていたという。俳優の仕事ができない分、コンビニなどのアルバイトを頑張った人たちもいた。
劇のオープニングで披露する歌を歌ってくれた俳優たち
俳優と共に舞台を作る文化座の制作部、原田明子さんは「お芝居でしか伝えられないことがある。だからコロナに負けずに頑張っている」と語ってくれた。
歌を歌う様子を見学し、早口言葉も体験した。言いにくいせりふを滑舌よく言えるようにするために俳優がする練習だ。「寧々殿も寧々殿なら信長殿も信長殿ぢゃ」。勢いよく挑戦すると舌がからまる人もいたけれど、「はやすぎなくてもいい。聞こえやすいようにはっきりと」とアドバイスをもらった。
コロナ禍でもあきらめず、稽古をしていた文化座のみなさんにすごく心を引きつけられた。「ハンナのかばん」の上演はまず東京。全国公演が決まったら、九州でも俳優たちの努力がたくさん詰まった劇を見たい。
カメラの向こうにいるこども記者に早口言葉を教えてくれた白幡大介さん。ハンナのお父さん役を演じる
「ハンナのかばん」オンライン配信へ CFで資金募集中
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、劇団文化座は「ハンナのかばん」をオンライン配信するための資金を募っている。2021年1月7日まで。配信が実現すれば、自宅から公演を楽しむことができる(有料)。集まった資金は公演のための劇場使用料などにも役立てる。詳しくはクラウドファンディング(CF)のサイト「READYFOR(レディーフォー)」へ。
「私もお芝居やってみたい」「コロナに気をつけて頑張って」~こども記者たちの感想
■演じるコツを聞くと「自分の普段の言い方を使うといい」と教えてもらった。(梅野陽向記者)
■俳優という仕事は、演技をすることでお客さんにさまざまな感情を与えるすてきな仕事だと思った。(下村美沙記者)
■俳優さんは体力を使うお芝居のとき、私と同じで焼き肉を食べたくなると言っていた。コロナに気をつけて、ご飯をきちんと食べて頑張ってください。(竹下月菜記者)
■これだけ勉強をしているから、言葉をお客さんに伝えることができるんだなと思う。(平川煌野記者)
■自分はどんな風に演じたいのか、それに近づけるように課題を見つけ、より良いものにしていくことが本物の努力なんだと感じた。(平川千野記者)
■この記事を読んでいるみなさんも、劇団文化座の一人一人が作り上げたすばらしい物語を見に行ってほしい。(河原綾音記者)
■作品によって求められることは違うので、ランニングをしたり本を読んだり、いろいろな準備をして本番に挑むそうだ。(立川日彩記者)
■「俳優」と聞くとテレビや映画を想像するけれど、(舞台で演じる)劇団の俳優さんはあまり知らなかった。(西田仁胡記者)
■高校生のときから俳優さんを目指していた人が多かった。夢をかなえられてすごい。(西田美咲記者)
■「劇でしか伝わらないことを伝えていきたい」という熱い思いにとても感動した。(西原実優希記者)
■私たちに取材を依頼してくれた理由を聞くと、「13歳で亡くなった女の子の話を同世代のみなさんにも知ってもらいたい。大人たちが演劇というものをやっていることも知ってもらいたかった」と語ってくれた。(西山麻耶記者)
■将来は俳優さんになりたい。歌ってくれた歌はたくさんの声が重なり合っていて、うっとり。表情もきらきらしていて、思わずお話の中に吸い込まれそうになった。(野口明香里記者)
■ハンナを演じる市川さんは、活発で明るくて家族思いな子を想像したという。ハンナが伝えたいのは死よりも命の大切さ。みんなにも知ってもらいたい。(樋口空良記者)
■文化座の人たちはとても仲が良く、言いたいことをはっきり言っていていいなと思った。これは演技にもつながるんじゃないかと思った。(平田桃圭記者)
■目指す俳優を聞くと、「2時間半くらいのお芝居をずっと会話で紡ぐ会話劇に出られるような、そんな俳優になりたい」と言っていた。(前田袈乃記者)
■演劇は今のロボット時代に、感情を忘れさせないための仕事なのかもしれない。自分もお芝居をしてみたいと思うようになった。(益田華那記者)
■「ハンナのかばん」公演案内■
劇団文化座公演157 「ハンナのかばん」 2021年1月9~17日、東京芸術劇場(東京都・西池袋)。一般5500円、高校生以下2500円など。劇団文化座(月~土、午前10時~午後6時)=03(3828)2216。劇団の公式HPはこちら
「ハンナのかばん」公演チラシ