「汚い手で触るな」カスハラの苦悩…店と客、対等に接するためには

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

カスタマーハラスメント報告 (下)

 「菌がうつるから近寄るな、と言われた」

 「レジで商品スキャンのためペットボトルのふたの部分を触ったら、『汚い手で触るな』と怒鳴られた」

 流通・サービス業の産業別労組「UAゼンセン」が今年7~9月、組合員に実施したカスタマーハラスメント(カスハラ)の調査。約2万7千件の回答からは、新型コロナウイルス禍で理不尽なクレームに苦しむ働き手の姿が浮かんだ。

 調査では、約2割がコロナを背景にした迷惑行為があったと回答。一方、企業の対策は「特になされていない」が約43%に上った。

 労組は今月3日、東京で開いたカスハラの緊急報告集会で結果を公表。講演した東洋大の桐生正幸教授(犯罪心理学)は「悪質クレーマー規制法のような法を定め、客と店の立場は対等という文化をつくらないと、カスハラはなくならない」と述べた。新たな法整備に時間がかかるなら、今ある法律の解釈を広げて迷惑行為を規制する案も示した。

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 店側は客と同じ目線で接することができるのか。現場には戸惑いがある。

 福岡市内の通信機器販売店で働く女性(33)は4月、男性客に暴言を吐かれ、頬を平手でたたかれた。

 男性客は60代くらい。購入品の操作に必要な暗証番号を忘れていた。店では分からないと説明したが、大声で「店が持っとるやろう」。感染防止用にカウンターに設けた透明のシートも手でたたき落とした。

 その日以降も男性は複数回、店に現れて騒いだ。女性は嘆く。「クレームがあれば本社に報告しないといけない。そうしたら『なぜクレームが発生したのか』と売り場に責任があるように言われる。毅然(きぜん)とした態度なんてできませんよ」

 同市内の商業施設に勤める男性(29)も悩んでいる。コロナ禍で、買った商品の返品を求められることが増えた。服や雑貨など多いと1日1件ほどある。しかも使用済みで、レシートもない。「お客さまも仕事がなくなったとかで、お金に困っているんですかね」。断ると大声でなじられた。

 コロナ対策への苦情も多い。施設はドアを入り口専用と出口専用に分けている。入店時の検温と消毒を徹底するためだが、出口から入ろうとした常連の男性客から「聞いてないぞ」と30分ほど大声で責められた。

 男性は、カスハラを防ぐ対処法は客によって異なると感じている。サービスに差はつけられないが、「『自分は客だ』と上から主張する人はいるし、常連さんもいる。対等に接したくても、誰にでもできるわけじゃない」

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 同じ商業施設に勤める男性(47)は、店の過剰なサービスが、いつかカスハラに結び付くと思っていた。

 「お得意さまから『おたくはさすがだね』と言われようと、無理なサービスもしてきた」。今からサービスを制限すれば客離れにつながらないか。2人は「消費者の意識が何とか変わらないか…」と口をそろえた。

 「お客さま第一」が根付いた今、店と客が同じ立場で接するには、企業の対策や法整備という後ろ盾が必要になりそうだ。

 関西大の池内裕美教授(社会心理学)は、企業が苦情対応で向き合うのは客個人にとどまらず、大衆が相手になっているとみる。消費者がクレームや企業の反応をインターネットで発信すれば、不特定多数に広がるためだ。

 このため、企業はクレームに組織的に対応する必要があると指摘する。苦情に向き合う従業員のサポート▽応対する技術の向上▽被害に遭った従業員同士が情報交換できる場の設置-を対策の例に挙げる。

 池内教授は「カスハラは社会問題化しており、法律を整備して禁止する行為と罰則を明記することも大事だろう。同時に、企業も法がきちんと機能するような組織体制や風土をつくる必要があり、そこが重要になる」と提言した。 (編集委員・河野賢治)

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