山笠の消えた夏 博多っ子、「英断」下す

回顧2020 都市圏(1)

 今年7月15日未明、例年なら博多祇園山笠の「追い山」でにぎわう櫛田神社(福岡市博多区上川端町)で「祇園例大祭」の神事が粛々と行われていた。追い山時刻(午前4時59分)が近づくにつれ、神社に山笠の男たちが申し合わせたかのように続々とやってきた。

 参拝すると、境内に立つ「清道旗」に向けて歩きだし、取り囲んだ。100人余の男女が一番山笠の櫛田入り時刻(追い山時刻)を待った。定刻になると、満を持したように「祝いめでた」の合唱と手拍子が起きた。どこの流(ながれ)の舁(か)き手だろうか、20代の若者が涙をぬぐいながら歌っていた。

 山笠が消える街。博多っ子が想像すらしなかった光景が、コロナ禍で現実になった今夏。時が止まったような街では、山笠の期間はのれんを下ろす居酒屋の大将が店を開け、会社を休む「山のぼせ」たちも普段通りの日常を過ごした。東流の元総務、後郷壽雄(ひさお)さん(66)は「生きがいでもある山笠と自身の人生との関わりを、見つめ直した夏でした」と胸の内を語る。

 舁き山笠や水法被姿は見られなかったが、飾り山笠が櫛田神社にだけ建った。「1カ所でも山笠が建ち神事も行った。祭りは“規模縮小”しても、伝統は受け継ぎました」。阿部憲之介宮司は誇りをにじませた。

 博多っ子にとって山笠は単なる「お祭り」ではない。決められた行事を滞りなく行うため、舁き山笠七流は1年をかけて準備に励む。「自分たちこそが山笠の担い手、守るべき伝統は絶やせない」。自負心と使命感が祭りを支えている。

 一方で、博多祇園山笠は国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録された日本を代表する祭りでもある。コロナ感染拡大が憂慮された今夏、自負心や使命感に突き動かされずに、断腸の思いで祭りを見送った判断は無形文化遺産の名に恥じない、博多っ子の英断だったと思う。

 2020年末もコロナ感染が猛威を振るっている。博多山笠は疫病封じの祈願から始まったと伝わる。災いを乗り越え、病魔を払う山笠の風が吹く夏は、必ずやってくる。 (博多まちなか支局・手嶋秀剛)

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 コロナ禍に見舞われた2020年も残すところ、わずか。福岡都市圏で取材を重ねた記者たちが、この1年を振り返る。

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