「石綿」で国敗訴 救済拡充と再発防止策を

 アスベスト(石綿)を吸引したことなどによる肺がんや中皮腫は、発症までに数十年の長い潜伏期間がある。関係する職場で長年働いた人々の不安は察するに余りある。

 建設現場で石綿による健康被害を受けた元労働者や遺族らが国と建材メーカーに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は国の上告を受理しない決定をした。必要な規制を怠った国の責任を認め、原告327人に計約22億8千万円を支払うよう命じた二審東京高裁判決が確定した。

 福岡など全国9地裁に千人以上が起こした「建設アスベスト訴訟」で、初めて国への賠償命令が確定したことになる。

 一連の訴訟では、高裁段階での国の敗訴が福岡を含めて続いてきた。今回、最終決着がついたと言える。

 最高裁の決定を受け、田村憲久厚生労働相は記者会見で「責任を感じ、深くおわびを申し上げたい」と述べた。遅きに失したとの批判は免れまい。

 厚労相は一方で、原告たちが求める補償制度の創設など今後の対応については「高裁判決を踏まえ、適切に対応したい」と述べるにとどめている。

 国は確定判決を受け、責任を持って従来より踏み込んだ被害者救済と再発防止策を早急に打ち出さねばならない。

 石綿は耐火性に優れており、建材に広く使われ、1960年代以降に大量輸入された。国は66年、住宅建設5カ年計画を策定して持ち家の取得を促し、住宅の建設ラッシュが続いた。

 今回確定した判決は医学的知見から、国は73年までには労働者が石綿関連疾患にかかる危険性を予見できたと認定した。その上で、遅くとも75年10月には防じんマスク着用を雇用主に義務付けるといった対策を講じるべきだったと断じた。

 にもかかわらず国が石綿の使用や製造、輸入を禁止したのは2006年のことだ。欧米各国は1980年代には大きく消費量を減らしていた。日本の後れは当初から明らかだった。

 中皮腫を患う人の大半が石綿を吸ったことが原因とされ、年間の死者数は1500人を超える。今後、潜伏期間を過ぎて発症する患者はさらに増えるとみられる。現行の救済制度で支給する医療費や療養手当にとどまらない十分な補償が必要だ。

 さらに目を背けられない問題は、石綿を使った民間建築物の解体作業が10年程度先にピークを迎えることだ。全国で少なくとも300万棟近くあると推計されている。作業は周辺住民にも影響を及ぼす可能性がある。国や自治体は実態調査を進め、住民への周知と飛散防止策の強化を急ぎたい。

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