コロナ禍が語る同調圧力 佐藤直樹氏

西日本新聞 オピニオン面

◆年の終わりに

 新語・流行語の年間大賞に「3密」が選ばれ、ノミネートされた言葉も新型コロナウイルス関連が大半。まさにコロナ禍に始まり、コロナ禍に終わった2020年であった。全世界の風景を一変させた、この未曽有の厄災がはからずも露呈させたのは、ノミネート語にもなった「自粛警察」の登場に象徴される、この国の同調圧力の異様な強さだ。

 もちろん同調圧力は、大なり小なりどこの国にもある。だが日本の特異さは、その根底に「世間」の暴走があったことだ。たとえばこの国では、コロナ感染者があたかも犯罪者のようにみなされ差別されるが、欧米ではまずありえない。漫画家のヤマザキマリさんは、イタリアでは「いわゆる感染者差別というのはまったくと言っていいくらい、ない。病気での差別は数百年前までのプリミティブな(原始的な)人間のやることだと捉えている」という。

 感染者差別が起きるのは、日本社会が千年以上歴史のある伝統的な「世間」に縛られており、現在でも犯罪や病気を呪術的なケガレと考えるからだ。じつは欧州でも「世間」にあたるものが存在したのだが、11~12世紀以降に消滅した。これがイタリアで「プリミティブ」といわれるのは、かつて欧州でも差別の歴史があったからである。

 近年インターネットの普及で誰もが自由に発信できるようになったが、皮肉なことにコロナ禍においては、スマホが手軽な隣組や国防婦人会と化している。その結果、感染者の氏名・住所等の個人情報がネットにさらされ、差別やバッシングが頻発するようになった。

 日本ではSNSの匿名率がきわめて高い。総務省の『情報通信白書』によれば、ツイッターの匿名率はじつに75・1%。米35・7%、英31・0%、仏45・0%、韓国31・5%等と比べて突出している。その理由は、「世間」の同調圧力があまりに強いため、実名では個人を特定され叩(たた)かれることを恐れるからだ。しかしこのネットの匿名性こそが、俗にいう「旅の恥はかき捨て」状態をひきおこし、感染者への差別やバッシングを生み出す温床となっている。

 それ故、「世間」の暴走を止めるためにいま必要なのは、ネットにアップする前に、それが実名でも発信できる内容なのか、まず自分に問いかけてみることである。

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 佐藤 直樹(さとう・なおき)九州工業大名誉教授

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