【地域とつながる新手段】 松田美幸さん

◆あなたも窓を開けよう

 今年3月、新型コロナウイルス感染が拡大したイタリア。全土で外出禁止措置が取られたとき、アパートのバルコニーから、人々が楽器を奏で、歌い、お互いを励まし合っていた光景を思い出す。

 バルコニーが社会とつながる空間になり、「私たちはひとりではない」と喜びを共有する人々。日本でも「バルコニスト」という造語が生まれた。バルコニーを自分らしく活用する人という意味だ。東京都心で暮らす人が、外出もできず、誰にも会えない時に、バルコニーというこれまで意識しなかった非日常空間の可能性に目をつけた。

 狭くても、テーブルと椅子を置き、カフェのような空間にしつらえ、少人数で交流するライフスタイルを会員制交流サイト(SNS)で発信したところ、反響があり、日本バルコニスト協会立ち上げに至った。押しつけの「新しい生活様式」にうんざりしていた人たちが、新鮮な気づきを得たのではなかろうか。 

 協会のモットーは「あなたも窓を開けて」。バルコニーの窓だけでなく、心の窓も開放して、日常にあるものへの見方を変え、新しい価値を生み出そうと提案している。

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 今年は、医療従事者をはじめとして、社会生活を支えるのに不可欠な仕事に従事する「エッセンシャルワーカー」の存在が注目された。この年末年始も、例年以上に重い役割を担ってくださっている。エッセンシャルワーカーの奮闘のおかげで、私たちは年越しを迎えることができる。感謝やねぎらいの言葉だけでは尽くせない。

 一方で、とりわけケア労働を取り巻く矛盾も顕著になった。本来は、相手に応じたケアやサービスを提供するという高度な技術が求められ、プロとしての成長を感じられるやりがいある仕事だ。「エッセンシャル」には、「最も重要」とか、「本質的な」という意味がある。だが、報酬は低く、恒常的な人手不足で現場は疲弊していた。そこにコロナ対応が追い打ちをかけ、離職者も増えている。

 前線で働く人たちが離職する背景には、自分たちの処遇改善を声に出しにくい状況にあることも見逃せない。それは、個々の雇用主の責任というよりは、社会にとって必要な仕事とは何かを、私たちが正しく評価してこなかったからではないか。仕事や働き方の価値を、社会全体で見直すべきだとの警鐘と考えたい。

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 コロナ禍への対応で課題が山積みの先の国会で、「労働者協同組合法」が与野党の枠を超えて成立した。「出資・経営・労働を一体化した協同労働を行う組織」に法人格を与える法律で、働く人たちが主体となる運営を可能にする画期的な制度だ。設立に官庁の認可は不要で、3人以上の発起人で始められる。

 これまで、介護や福祉、子育て支援などの地域課題に法人として取り組む選択肢は、NPOや社会福祉法人だった。これらは、認可に時間がかかり、活動分野が限られるなど使いにくく、出資や経営などの意思決定への参画も限定的である。NPO法は、阪神・淡路大震災を契機に短期間で制定されたが、労働者協同組合法は、1990年代から法制化の動きが始まり、世界的なパンデミックの中でようやく成立した。

 コロナ禍以前から、人口減少により、暮らしを支える事業者やサービスの撤退が続く地域が増えている。協同労働は、住民が自ら出資し、経営者となって、働くことを後押しするとともに、その地域にとって必須の仕事を生み出す仕組みだ。組合員はお互いに仕事を通じてつながり、地域住民ともつながる。地域や社会とつながり直すための新たな手段に期待したい。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、経済産業省産業構造審議会臨時委員。

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