言えなかった「来てください」 コロナ禍の師走、中洲から去る店たち

 新型コロナウイルスの「第3波」は、師走の飲食業界に打撃を与えた。九州一の歓楽街、福岡市博多区の中洲も厳しい冬を迎えている。先行きが見えない中、年の瀬を一つの節目として、長年過ごしたネオン街に別れを告げる人たちがいる。ある人は後ろ髪を引かれながら、ある人は再起を期して…。

 ビルがひしめく中洲で小さな店が軒を連ねる「人形小路」。この路地で40年近く営んだ小料理店「」が26日、のれんを下ろした。

 1階はカウンター9席、2階は6畳の座敷だけ。店主の石田宏行さん(74)と妻の麻美子さん(71)は総菜3品を千円で出した。「安価で良い酒が飲める店」。小さな店には時に芸能人やプロ野球選手も訪れた。カウンター越しの客との会話が夫婦の楽しみだった。

 コロナはつつましい商いも襲った。3月から休業し、7月に再開。だが高齢の常連客の戻りは鈍い。週末で2~3人、平日はゼロの日も。行政の支援で何とかしのいだ。

 10月中旬、久々のコース料理の予約に腕を振るったが、誰も来なかった。予約したはずの相手は「していない」と言い張った。怒る気はない。ただ、「潮時」と感じた。「コロナさえなければ、こんな気持ちにならなかっただろうね」

 最終日には常連客が入れ代わり立ち代わり。計20人。閉店を翻意するよう懇願する人もいた。幸せな人生だと思う。夫婦は離れる街にエールを送る。「コロナ収束後、中洲は再び一番元気な街になる。今ある店はそれまで頑張ってほしい」

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 地場大手企業の幹部らに親しまれたミニクラブ「まりあざみ」は、25日で営業を終えた。ママの松本鞠絵さんは20歳の時、政財界や芸能界の著名人を顧客に抱えた名門クラブで働き始め、10年後に店を持った。

 社交場であるクラブは人と人をつなぐのが役割。コロナ禍で、社会は人との接触を減らすよう求められている。どんなに感染予防の対策をしても、ひいきにしてくれた長年の客に「来てください」が言えなかった。毎月赤字がかさむ中、「今のうちにいったん身を引こう」と決めた。

 一方で、収束後の再出店も思い描く。「コロナに負けたって思いたくない」。常連に送ったお礼状には、こうしたためた。《「ただいま」「おかえり」と言える日を待っています》

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 福岡市によると、今年4~11月に博多区内で廃業を届け出た飲食店は、前年同期比2割増の550件。

 飲食業界は例年、1~2月に閑散期を迎える。中洲の街を長年見てきた地場不動産会社幹部は「社用族や長年の常連に支えられた店ほど厳しい状況が続いており、廃業を選択する恐れはある」と懸念している。(井崎圭)

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