目の前のガラスは要らぬと泣き拗ねる コロナ禍で揺れる高齢者の心…短歌に託す

西日本新聞 一面 藤原 賢吾

 介護を受ける高齢者や支える介護者たちを対象とする「心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会」(宮崎県社会福祉協議会主催)に、今年は新型コロナウイルス禍の影響がにじむ作品が数多く寄せられた。超高齢社会を襲った未体験の災禍。認知症の妻を介護する夫、亡き夫の下着をマスクにした妻などの千々に乱れた心情が歌にこもる。

目の前のガラスは要(い)らぬと泣き拗(す)ねる妻コロナなど知る由(よし)も無し

 これは、応募3443首から「介護者の部」で最優秀賞を射止めた宮崎県西都市の加藤健二さん(77)の歌。2014年に軽い認知症と診断され2年後に入院した妻チヅ子さん(83)を見舞うため、加藤さんは朝な夕なに病院へ。その逢瀬(おうせ)が引き裂かれた。

 3月からの面会中止が解けたのは5カ月後。15分の対面に胸は高鳴る。だが、談話室のテーブルには2人を遮る透明の板。新型感染症を理解できない妻は板を倒すほどの勢いで言った。

 「せっかく会えたのに手も握られん。こげなもの、のけない(どけて)」

 いじらしくて抱きしめたかった。前夫と離婚し一人娘のいるチヅ子さんを見初めて、結婚したのは28歳のとき。世話好きの彼女を頼りにしていた。10代から親しむ短歌だが、歌会仲間によくこう冷やかされる。

 「奥さんの歌ばっかり」

 「第3波」が吹き荒れ、再び会えぬ日々が続く。5分前の出来事さえ忘れてしまう妻。いつか自分も…。

 「コロナが収まったら、妻の好きな西都原の花を一緒に見に行きたいんです」

顔に似ず心やさしい人だった夫のパンツでマスク作る日々

 鹿児島県出水市の斉野信子さん(86)の夫哲男さんは、肺気腫で5カ月の闘病の末、4月に94歳で息を引き取った。22歳のときに親の勧めで顔も名も知らずに結婚した夫は、真面目一徹で信子さんに何一つ反対しない優しさがあった。

 哲男さんを身近に感じたい。退院を信じて用意した新品の下着3枚にはさみを入れた。得意の裁縫で仕上げたマスクは毎日お風呂で手洗いする。

 「私は優しくなくて、お父さんごめんなさいという気持ちを込めました」

 選考した歌人の伊藤一彦さんは「高齢者の中には普段我慢している人や、喜びを周りに伝えられない人もいる」と指摘。「歌には率直な思いが込められている」と魅力を語る。

 沈みがちな心も、三十一文字(みそひともじ)に託せばふっと軽くなる。だから歌おう、老いてなお。

   ◇   ◇

 応募作を収めた歌集「老いて歌おう」は宮崎市の出版社、鉱脈社から発売中。1980円。

(藤原賢吾)

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