オノマトペで年を越す 山上武雄

 それは日常会話から漫画、小説とあらゆる活字媒体にも使われる、ずいぶんと便利な言葉だ。「ゴクリ」「ひらひら」「わんわん」などのオノマトペ(擬音語・擬態語)。「onomatop〓e(〓は「e」の上に「´」)」のフランス語が語源という。その表現は、そうそう、そうだよなとイメージが湧く。

 オノマトペ研究で知られる埼玉大の山口仲美名誉教授が著した「オノマトペの歴史2」(風間書房)は興味深い。新聞や雑誌で使われた言葉をまとめ、語形化して分類している。オノマトペをA(ふ)、AA(だだ・へへ・ふふ)、AッA(かっか・さっさ・ぱっぱ)、AB(どさ・どき・どて)、ABAB(きらきら・ぴかぴか)、ABり(きらり・ちくり)など-。ABAB型が典型だそうだ。なるほど、うんうん。

 擬音語・擬態語の歴史は古く、奈良時代には木が風に揺らぐ音を「さやさや」、春の日ののどかさを「うらうら」と表現していたという。いにしえの人はなんと麗しい表現を使っていたことか。品がある。「ノリノリで踊っちゃうね」「レンジでチンしといて」「全開バリバリったい」「これでサボれるばい、シメシメ」と貧相な表現が目立つ現代人の私と大違いだったようだ。

 年末恒例の今年の漢字は「密」だったが、オノマトペに入れ替えたら何だろう。あのウイルスのせいで誰もが当事者となり、苦しんだ2020年。重い言葉になりそうだ。うーん、思い付かない。

 ちょうど1年前、エーッと絶句した。金融商品取引法違反などの罪で起訴され、保釈中にもかかわらず日本から密出国し、レバノンに逃亡した日産自動車の元会長がいた。楽器ケースの中に潜みプライベートジェットで出国したとされる、あの大仕掛けの逃亡劇は驚きだった。

 オノマトペの国フランスで学業を修めた男はシメシメとケースに入り、ハハハ、ヒヒヒ、フフフ、へへへとチョロいぜとほくそ笑みながらドロン。中東での生活をガハハと満喫しているのだろうか。優雅に年越しか。あれっ、思い出せない、元会長の名前。カルロス何とかだった。

 年も暮れる。大みそかの夜、そして年が変わり元旦にかけて「除夜の鐘」が鳴り響く。それにしても百八つの煩悩じゃないが、忘れてしまうのか、あれほど列島を騒がせた男の名を。たしか擬音語っぽかった。逃亡した彼が、日本人の心に染みる鐘の音を聞くことはないけれど。

 ゴ~~ン。 (くらし文化部編集委員)

 ◇風向計は1月5日付から再開します。

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