『わが青春に悔なし』藤田進と原節子が闘う 戦時の思想弾圧、影さす今

フクオカ☆シネマペディア(18)

 巨匠、黒澤明監督の戦後第1作「わが青春に悔なし」(1946年)。福岡県久留米市出身の藤田進が主演を務める。演じるのは、満州事変の後、軍国主義の台頭とともに言論弾圧が強まる中、京都大に対する教授人事介入事件を巡り、学問の自由を訴えて学生運動を引っ張った京大生だ。

 33(昭和8)年、京大法学部の教授が、自由主義的な言論をとがめる文部省から休職処分を受け、法学部の全教授らが辞表を出して撤回を求めた「滝川事件」の史実に基づく。

 映画は、京大を追われる教授、八木原(大河内伝次郎)の娘、幸枝(原節子)と、京大生の野毛(藤田)、糸川(河野秋武)の歩みを通し、治安維持法の下、特高警察が無党派知識人や自由主義者らを摘発した戦前戦中の暗黒時代を描く。

 野毛は正義感あふれる行動派で、八木原の追放に憤り運動に熱を入れる。糸川は堅実派だ。

 野毛は、父を案じる幸枝に、早口で八木原追放の背景を説く。「軍閥(軍部を中心とする政治勢力)が侵略の野望を強行するために財閥、官僚と結び、国内の思想統一を図ろうとしている。侵略に反対の思想は彼らにはすべてアカだ」

 教授陣の連名辞職による抗議にも弾圧は緩まない。八木原は京大を去って弁護士になる。野毛は学生運動の渦中で逮捕され出獄後、姿を消す。

 幸枝は生き方に迷う。検事になった糸川には安心感があるが、平穏無事な主婦生活はいやだ。目のくらむような野毛の熱情が心に残る。東京に出て自活する中で、中国問題の権威として研究所を営みつつ水面下で反戦運動をする野毛と再会する。2人は結ばれるが、スパイ容疑で不当逮捕される。幸枝は黙秘を貫く。野毛は獄死する。悲嘆に暮れる幸枝。だが、彼女が選んだ道は、農業を営む野毛の両親を亡き息子の嫁として支えることだった。

 ふと、日本学術会議の会員推薦を巡る政府の任命拒否、という今の問題が頭に浮かんで映画と重なった。「学問の自由への不当な政治介入」などと批判が上がり、同会議は任命を求めるが、政府はかたくなに応じない。任命を拒まれた6人は安全保障関連法制や特定秘密保護法などに反対した学者たちだ。

 滝川事件の後、政府は軍国ファシズムの統制を強め、戦争に踏み込み日本を破局に導いた。日本学術会議の会員任命拒否はそれと同根の危うさをはらんでいないだろうか。

 さて、映画。幸枝が野毛の実家を訪ねると、「スパイの家」と村八分に遭って義父は家にこもり、義母は人目を避けて夜に農作業をしていた。幸枝は義母を助け、くわをふるう。堂々と白昼出歩き、白眼視されればされるほど働く。心身ともに疲弊するが、「顧みて悔いのない生活」という野毛の口癖が心に浮かんでは背中を押す。田植えしたばかりの田んぼが荒らされても、くじけない。たおやかな原のイメージと違う、まなじりを決してまっすぐに立つ不屈の熱情がまぶしく、思わずたじろぐほどだ。

 だが、単純に喝采を送れないのは、幸枝らを「売国奴」と排除する村人たちの目線の残像が、今、一部にある悪い風潮とダブって心がざわつくからか。私たちは今、どんな歴史の道筋にあるのか、思いを巡らさずにいられない。 (吉田昭一郎)

※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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