「新冷戦」どうなる?温暖化巡り協調の道も 本紙特派員座談会
米国で20日、バイデン政権がスタートする。現在のトランプ政権下で「新冷戦」と呼ばれるほど中国との対立を深めた米国。バイデン政権誕生で、米中関係はどうなっていくのか。そして、日本は米中とどう向き合っていけばいいのか。本紙ワシントン支局・田中伸幸支局長と中国総局・坂本信博総局長がオンラインで意見を交わした。(司会は国際部長・久永健志)
■新政権の外交姿勢
-バイデン政権の基本的なアジア戦略、対中姿勢とは。
田中「バイデン次期大統領は上院議員や副大統領として40年以上活動し、外交は専門分野といえるほど詳しい。欧州との関係や核軍縮に加えてアジアへの関心も高いといわれている。米国は今、新型コロナウイルス対策と経済再生が最優先で、外交より内政に重きを置かざるを得ないが、だからといって外交をおろそかにはできない。欧州、アジア、中南米などで中国が影響力を強める中、世界のリーダーとしての米国の存在感を高める行動に出るだろう」
-トランプ大統領の外交との違いは。
田中「米国の外交は基本的に同盟国などと緊密に連携しながら多国間協調、国際協調を重視してきた。オバマ政権時のイランとの核合意などがそうだ。一方、トランプ政権下では米国独断のトップ外交が非常に目立ち、イランとの合意を一方的に破棄するなど多国間協調を軽視し、既存の政治家や専門家たちの多くは強く批判している」
「ただ、トップ外交は成果も生んだ。例えば長年の課題である中東問題では、トランプ氏がイスラエルとの関係を強化しつつ、中東のいくつかの国とイスラエルとの関係改善を実現した。北朝鮮の非核化問題でも、金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談の開催は評価が割れるものの、あいまいな内容とはいえ非核化に関する共同声明に署名した点を評価する見方もある」
-米国の政権交代の影響を中国はどうみているか。
坂本「バイデン政権になっても、中国に厳しい姿勢で臨む外交路線は変わらないと習近平指導部はみているようだ。対中強硬姿勢が続いたトランプ政権の“遺産”で、中国を地政学的な競争相手とみることが米国のエリート層の共通認識になっている。議会も一連の反中法案を採択しているため、もしバイデン氏が米中関係を改善したいと思ったとしても当面は難しいからだ」
「加えて、ウイグル族など少数民族の抑圧や、香港の高度な自治を保障した『一国二制度』の形骸化などの人権問題を巡って、民主党政権は共和党政権以上に中国への批判を強める可能性もある。一方で、何をするかわからないトランプ氏と違い、予見可能性は高まるとの見方もある」
■「新冷戦」の今後
-「新冷戦」といわれるほど米中関係は悪化している。バイデン政権は実際、どう取り組んでいくのか。
田中「確かに米国の対中世論は非常に厳しい。経済界がもともと知的財産の問題などを巡って不信感を強めていたが、トランプ氏は前回の大統領選で米国の製造業の低迷と雇用情勢の悪化を中国などのせいだと訴えて当選した。大統領就任後も中国批判を繰り返し、最近では敵視している状態だ。その結果、今では与野党双方が中国の人権問題を含め、多くの分野で中国への対決姿勢を強め、嫌中感情は一般市民にも浸透してしまった。新型コロナの流行が中国で始まったとされる点も追い打ちをかけた」
「こうした環境は、バイデン氏が対中外交を展開する上での制約になってしまう。バイデン氏の外交の基本姿勢は対話だが、オバマ政権当時に比べて、中国の存在はますます大きくなり強硬姿勢も強めているだけに、バイデン氏はオバマ政権時よりもさらに強硬な対応を取らざるを得ない。嫌中の国内世論もある難しい状況の中、地球温暖化対策などに関しては協調の道も探るバランスが求められる」
-習指導部は米国にどう向き合うか。
坂本「米国に関係修復を呼び掛けつつ、対中制裁関税の当面維持を表明しているバイデン氏の動きを見極める構えだ。中国の外交・安保の方針は長らく、1990年代に最高指導者の鄧小平氏が唱えた『
「習指導部には、新中国建国100年の2049年までに、世界一流の軍隊を備えた『社会主義現代化強国』を実現するという長期的な戦略目標がある。米国に追いつき追い越して世界のトップに立つということ。ただ、米国に対しては本質的には韜光養晦の姿勢を崩していない。習指導部は『軍事力でも科学技術力でも、今の中国ではまだまだ米国にはかなわない』と冷静にみている。米国が華為技術(ファーウェイ)へのハイテク製品の禁輸措置を発動したのをきっかけに、半導体や第5世代(5G)移動通信システムなど先端技術の研究開発や製品の国産化を加速させているが、半導体の自給自足にはほど遠い。米国と関係修復を図りたいのが本音だろう」