飯田丸が将来を決めた 石垣復旧を研究 就職で上京する24歳の誓い

西日本新聞 松本 紗菜子

 「こんなに近くで見たのは初めてです」

 熊本大大学院修士課程の竹祐亮さん(24)は復旧工事が進む熊本城で、崩れたままの石垣をじっと見つめた。「コンピューターのデータを通してしか見ていなかったので」

 情報電気工学専攻の2年生。3年前から、人工知能(AI)を活用して、石垣を元通りに積み直す技術の研究に取り組んできた。

 地震に遭ったのは大学2年の春。熊本大のパソコンルームで大きな揺れを感じた。自宅アパートは無事だったが、地元の島根に帰ることもできず、地震直後は1人で不安な日々を過ごしていた。

 約1週間後、アルバイト先のそば店で、客の会話が耳に入った。「自分のことより、城の話をしているのが印象的で。熊本城って、すごく愛されているんだ、と知りました」

 4年生になり、城の石垣復旧に向けた共同研究に取り組む研究室に入った。「地震に関係した研究ができるので、倍率が高かった」と振り返る。

 共同研究は、凸版印刷(東京)が地震前に撮影していた4万点を超す石垣や櫓(やぐら)などの写真データなどを活用し、石の元の位置を推定し、復元に生かそうというものだ。

 研究室では、AIの中核を担う技術「機械学習」を使う。主に崩落した石の落下位置などの情報をコンピューターに入力。石垣の配置パターンを導き出し、一つ一つの石の崩落位置を予測する。

 担当したのは、地震直後に「奇跡の一本石垣」で支えられ、かろうじて倒壊を免れた飯田丸五階櫓の石垣。「熊本市などから提供される膨大なデータから、学習に必要なものを抽出する初期段階が一番大変だった」。モニター画面に向かい、ひたすらデータを分析し続ける日々。石垣を間近で見る時間もなかった。

 春には大学院を修了し、東京の大手総合電機メーカーでエンジニアとして働き始める。研究をきっかけに、機械学習を使う仕事に興味を持った。石垣の復旧に役立っている、という自信を得て、新たなスタートを切る。「飯田丸五階櫓が、将来の方向性を決めてくれた。研究に費やした時間は、これからの人生の土台になると思います」

 飯田丸の石垣は春以降、積み直し作業が始まる予定だ。「完成した時は、この目で見るために熊本に戻りたい」 (松本紗菜子)

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 熊本地震の発生から4月で5年。大きく傷ついた熊本城は復旧が進み、春には天守閣内部の見学が可能になる。同じ頃に転機を迎え、新たな一歩を踏み出そうとする人たちに、「熊本城と私」について語ってもらった。

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