福島原発とフラガール 小出浩樹

西日本新聞 オピニオン面 小出 浩樹

 館内気温28度。靴下もはいていられない。コロナ禍でも越年営業したスパリゾートハワイアンズ(旧常磐ハワイアンセンター)は、福島県南部のいわき市にある一大温泉施設である。

 暮れに訪れた際は偶然にも福岡県民割引の日で、2割引きの2860円で入場できた。息苦しい1年の最後に感じた小さな幸せだ。

 施設の名を聞き、映画「フラガール」(2006年)を思い浮かべる人は多いだろう。地元・常磐炭田の炭鉱閉山に伴い、地域浮揚のため1966年に開業したハワイアンセンターの実話を基にした秀作だ。松雪泰子さん(佐賀県鳥栖市)、蒼井優さん(福岡市)という九州出身の名優が好演し、日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた。

 館内の展示によると、ハワイアン構想を進めた常磐炭礦(たんこう)副社長の中村豊氏は、唐津炭田があった佐賀県北波多村(現唐津市)生まれという。採炭の邪魔になる温泉湧出を逆手に取っての一徹ぶりに感心する。「2年でつぶれる」との批判をよそに、炭鉱住宅6千戸の従業員と家族に断言した。「君たちは二度と炭鉱には戻れない。センターが永久の職場なのだ」。自ら社長に就いた。

 プロダンサーによる特訓を受けるヤマの女たちは「腰振りねえちゃん」とさげすまれた。それを乗り越えて今がある。初めてダンスを生で見た。鍛え抜かれた全身で表現される芸術は圧巻だった。

 JR東日本の特急ひたちで52分。太平洋沿いを北上し、昨秋開館した東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)へ。大津波で被災した東京電力福島第1、第2原発を南に望む位置にある。

 説明文にはっとした。両原発に近い同県富岡町周辺は「常磐炭田の北端にあたる」という。つまり一帯はフラガールの地とつながっている。

 戦後、農業の衰退と過疎化が進み原発が誘致された。雇用を生んで出稼ぎは減り、家族の形をも変えた。原子力は、石炭に取って代わった石油から主役の座を奪った。より高みを目指す日本経済が欲したエネルギー革命である。原発事故はそして起きた。

 今年10年となる大震災は私たちに立ち止まり、考えるよう促したと思う。映画で炭鉱マン(豊川悦司さん)が放ったせりふが耳に残る。

 <時代が変わったからってぇ、なして俺らまで変わんなきゃなんねぇ?勝手に変わっちまったのは時代の方だべ>

 白い冬。家族と故郷を失い、避難生活を強いられる人がなお全国にいる。

 (特別論説委員)

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