チーズづくりに苦闘10年…今では行列ができる名物に 雲仙でカフェ営む夫婦

 「いらっしゃいませ!」と元気な店員の声が響くのは、長崎県雲仙市小浜町のカフェ「パインテールファーム」。隣の牛舎で乳牛約30頭を世話する牧場主の松尾順介さん(64)と妻のまゆ美さん(61)が切り盛りする。搾りたての牛乳や自家製ピザが楽しめるが、名物は夫婦が10年かけて作り上げたチーズだ。

 約35年前、国の生産調整によって搾乳した生乳を大量に廃棄する事態を受け「もったいない」と思った2人はチーズ生産を決めた。「勉強のため南フランスに行きたい」というまゆ美さんの提案を順介さんはすぐに却下。「ここにしかないチーズ作り」にこだわった。順介さんは一切人に教わらず、基本の作り方のみ本で勉強。2人の試行錯誤の日々が始まった。

 1作目はチーズの中でも作りやすいという理由でクリームチーズにした。大鍋と温度計、ザルを使用。搾乳した生乳30~40リットルを鍋に入れ、一定の温度で加熱殺菌。乳酸菌などを加えて固めザルで水分を抜き、熟成させる。工程は丸1日以上。食品商社が輸入する乳酸菌を数百種類から選び次々と試した。「食べられるかすら分からない」ものができたことも。そんなときも2人は笑って乗り越えた。

 失敗と成功を繰り返し、10年。夫婦は「いつの間にかおいしくなった」と振り返る。クリームチーズはフランス語で「1」を意味する「アン」と名付けた。アンはさらっとした口当たりで雑味がなく、パンやサラダに合わせやすい。

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 パインテールファームは直訳すると松尾牧場。夫婦の本職は、あくまで酪農業だ。現在は約30頭のホルスタインやジャージーといった乳牛を育て、牛乳を出荷している。

 捨てられてしまう乳を生かす目的で始まったチーズ作りだが、今は客と交流し、乳牛や酪農の魅力を発信するツールに。

 熟成の「ドゥ(2)」、白カビを使った「トワ(3)」と種類も広げ、2017年にカフェをオープン。営業日の土、日曜は家族連れなどでにぎわい、順番待ちの列ができるほどになった。口コミで広がり、同年に県観光連盟が実施した「県民が選ぶおすすめグルメ店100」に選出された。

 今はチーズ作りや牛舎での乳搾りの体験を受け付けている。チーズ作りのための大型の製造機4台も導入したが、まゆ美さんは「チーズは完成したと思っていない」とストイックだ。

 農業高卒業後、父が始めた牧場を継いだ順介さんにとって、牛は「毎日きちっと仕事を果たすいい仲間」。その「仕事」は夫婦の手でさまざまな形になり、広がっていく。

 (坪井映里香)

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