免疫力アップ、味と香り豊かに 無限の可能性秘めた「発酵の力」

西日本新聞 新西 ましほ

 しょうゆやみそ、お酒からパン、ヨーグルトに至るまで、発酵の力で生み出される食品は多い。普段あまり気にすることはないけれど、発酵って実はすごいのではないか。「発酵仮面」の異名を持つ発酵学の第一人者、東京農業大の小泉武夫名誉教授にその力について語ってもらった。

 人にできないことを、目に見えない小さな生き物がやっている。これが発酵のすごさです。発酵というと「腐ること?」と聞かれることがありますが、全く違う。いずれも微生物の働きで有機物が分解され、新しい物質が作られる現象で、このうち、人にとって良いことをする「善玉菌」の働きが発酵。チーズを作る乳酸菌、パンを作る酵母、しょうゆ造りに必要なこうじ菌などです。悪い働きをするのが「悪玉菌」で、食べ物を腐らせたり、病気を引き起こしたりします。

 発酵食品には魅力がたくさんあります。まず神秘的なほど腐りにくい。私はジョージアでナポレオン戦争時代の、約200年前のチーズに出合いました。和歌山には30年物のサンマのなれずしを出す店もあります。発酵微生物が腐敗菌などを寄せつけない物質を作るため、長期保存が可能になります。

 次に、これが一番すごいと思うんだけど、体にいい成分が増える。最たる例が甘酒。米にこうじ菌を繁殖させた「米こうじ」とご飯、それにお湯を加えて作りますが、甘いのは、こうじ菌の酵素が米のでんぷんを分解し、ブドウ糖に変えるから。同じように米のタンパク質はアミノ酸に変わります。こうじ菌は繁殖の際に大量のビタミンも作る。ブドウ糖、アミノ酸、ビタミンが豊富な甘酒は、現代医学でいう点滴ですね。

 発酵食品は免疫力を高めてくれます。例えば納豆1粒には数千万個の納豆菌がいる。こうした発酵菌が腸を通過する時に「免疫細胞を増やしなさい」というスイッチを押していくことが最近、分かってきました。

 また、発酵は独特な味と香りを生み出しますよね。牛乳がチーズに、大豆が納豆になると、全く違った味と香りになる。発酵によって食べ物の味と香りは豊かになります。

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 日本が世界に名だたる「発酵王国」なのをご存じですか。温暖で湿気の多い気候が発酵菌の生育に適している。中でもすごいのがこうじ菌。日本酒や焼酎、しょうゆ、みそ、みりんなどはこうじ菌がなければできない。世界遺産になった「和食」はこの伝統調味料から生まれました。こうじ菌は「国菌」に指定されています。それほど、私たちはこうじ菌の恩恵を受けているんです。

 イースト(パン酵母)のように発酵が早い微生物もいますが、一般的に発酵はスローな文化です。私たちはゆっくり時間をかけ、一生懸命微生物を育て、素晴らしい風味があり、栄養価の高い、豊かな食べ物を生み出してきました。

 発酵は無限の可能性を秘めたマジック、人類を救うと信じています。発酵は食べ物だけでなく、抗生物質などの医薬品も作り出しているし、河川の浄化や生ごみの処理、バイオマス発電など無公害エネルギーの技術にも使われています。今後は微生物を使った新しい食べ物の研究も進むでしょうね。

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