知人の店を継いで40年…客の人生に〝寄り添う〟スナック店主

西日本新聞 佐賀版 星野 楽

 JR鳥栖駅から歩いて1分。駅前通り沿いにあるビル1階の飲食店街に、スナック「ニュー・トスクイーン」の白い看板が光る。女性の横顔を上下逆さまに描いたデザイン。「まともに顔を見たらきれいじゃなかけん、逆立ちして見てねって意味たい」。ママの大島佐和子さん(67)は冗談を飛ばして笑った。

 知人の店を継いで約40年。かつての国鉄や専売公社の職員、駅から本通筋商店街を通って帰路に就くサラリーマンたちの話し相手になってきた。「言えんこともいろいろ経験した。生きるのに必死やった」。1日1人は常連客をつくる。そう目標を立て、店を切り盛りしてきた。

 2020年12月上旬、1人の男性がカウンターでたばこをくゆらせていた。元国鉄職員の丸久保明さん(79)。40年来の常連客だ。「ママは思ったことを言うけん気持ちよか」。顔を赤らめる丸久保さんのグラスに、大島さんは慣れた手つきでウイスキーを注ぐ。

 「あの言葉は一生忘れんね」と丸久保さん。30代の頃、店のカラオケで歌うと大島さんが言い放った。「丸ちゃん、聴くに堪えん歌声やね」。発声方法から変えようと詩吟サークルに入会。本格的に練習を重ね、佐賀県内外の大会で優勝するほど上達したという。今は市内の詩吟会で講師を務める。「小さいことが人生を変える。面白かね」。丸久保さんの一言に、大島さんもうなずく。

 バブル期は従業員7人で店を回した。午後7時に開店すると、20席の店内はすぐに埋まった。「来店を断っても『ここで飲みたい』って帰ってくれんかった」。立って飲む客、店外にビールケースを並べて飲む客…。翌朝5時まで店の明かりが消えることはなかった。

 調理スタッフがいた時期は、鍋焼きうどん目当ての常連客もいたが、今は乾き物のみ。客の要望があれば同じ通りの焼き鳥屋などに注文する。「隣同士で日頃の付き合いもあるから」。通り沿いの店同士の助け合いは今も昔も欠かせない。

 49歳で再婚。相手は店によく来る客だった。「同じ年代の常連客が『自分にも希望が湧いた。ありがとう』って手を合わせて喜んどった」。人生、何があるか分からない。新型コロナウイルスの流行を経験し、つくづくそう思う。駅前の人通りは減ったが、気にせず店を開ける。理由は簡単だ。「そりゃ、今を幸せに生きたいから」 

【鳥栖本通筋商店街一帯】JR鳥栖駅周辺の通称「駅前通り」と、駅西側から垂直に延びる約400メートルの「鳥栖本通筋商店街」がある。飲食店やスポーツ用品店など30店以上が並ぶ。昭和期の旧国鉄時代から中心市街地として栄え、現在は大型商業施設が集客を支える。アーケードは老朽化で撤去された。

(星野楽)

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