大都市圏にある「奇跡」 森竜太郎

西日本新聞 オピニオン面 森 竜太郎

 福岡市の隣に小さな「オアシス」を思わせる町がある。

 150万都市に隣接しながら町にマンションは1棟のみで人口は9千人ほど。団地の代わりに田園風景と山や川の豊かな自然が広がる。ベッドタウンとして開発や人口増が目立つ福岡県粕屋郡7町で異質の存在感を示す久山町だ。

 福岡市中心部まで車で30分という利便性と田舎暮らしの共存。大都市圏の「奇跡」とも呼べる町を生んだのは先人たちの英断だった。

 高度成長期の1970年、町議会は全会一致で、開発しないことを前提とする市街化調整区域の網を町域の97%にかぶせた。「日本列島改造論」が打ち出される直前、地方の開発と都市化が鳴り物入りで進められていた時期に、正反対の「自然との共存」を打ち出したのだ。

 当時の小早川新(あらた)町長は「久山町長の実験」(大谷健著、82年)で「よそはどんどん開発が進んだ。(中略)だから、開発で変化した後の状態の悪さが手にとるようにわかってきたわけでね」「あんまり人口を増やしちゃいけん、とにかく環境整備から第一に始めていこうということで町議会とも一致したわけです」と振り返っている。

 急激な人口流入を拒否し、環境を重視したまちづくりはぶれることなく続く。西村勝町長(48)は言う。「自然環境や古き良き日本のコミュニティーが再びクローズアップされている。久山が守ってきたものは普遍的な価値観だったのだと思う」。小学校は町に二つ、中学校は一つ。町を歩けば顔を知った人ばかり。大都市圏ではあり得ないだろう。

 1年半前、町内に自宅を購入した介護士の女性(44)は「ご近所から野菜をもらったり、お総菜をもらったり。都会では希薄になったつながりを感じる」と魅力を語る。

 町にはしたたかなところもある。単に“鎖国的政策”を続けてきただけではない。99年には市街化調整区域に指定したままで、約25万平方メートルの農地を転用して大型ショッピングセンター「トリアス久山」を誘致。核テナントの会員制量販店「コストコ」は、平日でも県外ナンバーの車も目立つほどにぎわう。

 地方の人口減少に焦点が当たる中、そこにこだわらず我が道を行く久山は、人口微増が続く。自然との関わり、人と人との絆、恵まれた立地…。町民が享受する暮らしよさを見ると、行政の仕事の意味を改めて考える。

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 ▼もり・りゅうたろう 島根県出身。1996年入社。北九州西支局、運動部、筑豊総局、柳川支局などを経て昨年8月から粕屋支局長。48歳。

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