「これからの哲学入門」 岸見一郎著
タイトルの副題が「未来を捨てて生きよ」。もう、救いようがない言葉だ。ベストセラー『嫌われる勇気』を著した作者が、ウイルスで苦しむこの時期に古今東西の哲学者などの言葉を踏まえ、生きるすべを伝える。
「根拠のない楽観は私たちを幸せにしない」と説く。第2次世界大戦中、アウシュビッツ収容所の生活をつづった医師ビクトール・フランクル『夜と霧』の以下のエピソードを引用している。1944年のクリスマスと45年の新年に収容所ではたくさんの死者が出た。過酷な労働や飢餓などが原因ではない。クリスマスに帰ることができるだろうという希望を打ち砕かれ、囚人の多くが倒れたのだ。
コロナ禍でも言えそうだ。そこには安易なポジティブ思考より、冷静に現実を受け止め、行動を起こすことが大事だということ。副題通りの説得力を持つ。
(山上武雄)
「これからの哲学入門」 岸見一郎著(幻冬舎・1320円)