【2021年の計】 出口治明さん

西日本新聞 オピニオン面

◆厳戒前向き戦略熟慮も

 2020年は、コロナに明け暮れた1年だった。21年は、どのような年になるだろうか。昨年末に公表された政府経済見通しによると、20年度の実質成長率は、緊急事態宣言が発出された4月ごろを底に、マイナス5・2%と戦後最大の落ち込みとなる見込みである。21年度は、公的支出による下支えと民需の自律的回復などで、4・0%程度の成長が予測されている。

 政府予想通りになれば、コロナ前の水準に回復する。そうであれば、「今年は明るい年になる」というのが普通の受け止めだろう。

 ところが、明るい見通しを持っている人は少ないだろう。コロナ禍が深刻な様相を強めているからだ。昨年11月以降、第3波が日本全国を襲っている。第1波や第2波の比ではない。しかも政府の対応は後手後手にまわっているように見える。そうすると、第3波はまだまだ続く、あるいは、もっと大きい第4波や第5波が襲ってくるのではないかと、恐れてしまう。

 「接線思考」(直線思考)という人間の思考のクセによるところもあると思う。円に接線を引く。円を少し回転させれば(状況が少し変化すれば)接線の向く方向は大きく変化する。それなのに人間は「円は回転しない」、つまり「現在の状況が続く」と思い込みがちだ。

    ◆   ◆ 

 冷静に観察してみよう。英米両国では、既にコロナワクチンの接種が始まっている。政府の経済見通し公表と同じ日に、米製薬会社ファイザーは、英米で接種が始まったコロナワクチンの承認申請をわが国政府にも行った。

 承認されれば、わが国でもワクチンの接種が始まることになる。菅義偉首相は、今年2月にも接種を開始すると明言した。政府は、6月末までに6千万人分のワクチンの供給を受けることで合意済みという。つまり、厳しい第3波に襲われているが、今年はコロナが少しずつ収束に向かうというシナリオも描ける。歴史的に見ると、過去のパンデミックは大体2年前後で収束している。

 リスク管理の基本は、最悪のケースを想定して事に当たることだといわれる。ただ、マイナス5・2%成長という20年度見通しのような大幅落ち込みは避けられるのではないか。昨年を乗り越えられたのだから、今年も乗り越えることができるはずだ。視界が開ける時は来る。

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 ちなみに世界は21年をどう見ているか。第3波の本格化前ではあるが、昨年10月に公表された国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、成長率予測は世界全体で5・2%成長(昨年はマイナス4・4%)、米国は3・1%成長(同マイナス4・3%)、ユーロ圏は5・2%成長(同マイナス8・3%)、日本は2・3%成長(同マイナス5・3%)、中国は8・2%成長(同1・9%)。

 先進国全体では3・9%成長(同マイナス5・8%)、新興市場国と発展途上国全体では6・0%成長(同マイナス3・3%)が見込まれる。直近の世界銀行予測も、世界全体でプラスに転じている。回復への潜在力を物語る。

 政府は、高水準で推移している第3波を念頭に、家で静かな新春を迎えてほしいと要請。年明けには再び緊急事態宣言に動いた。コロナ禍の難局に直面しており、感染拡大への厳戒と社会経済被害への的確な対応が最優先だ。その上で、悲観的になるばかりではなく、新しい年の経済活動や生活をどのように展開するのか、各自が前向きな戦略を考えていただきたい。

 コロナが収束したときに、全力で走りだせるよう、個人も企業も、熟慮する年初であってほしい。

 【略歴】1948年、三重県生まれ。72年、京大法卒、日本生命入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長など歴任。2008年、ライフネット生命を開業。12年上場。社長、会長を歴任。18年から現職。著書に「哲学と宗教全史」など。

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