色鉛筆を握ると光が差した【壱行の歌 認知症を描く】

西日本新聞 医療面

若年性認知症当事者・福田人志さん寄稿(9)

 2015年6月、初めての展示会は多くの来場者に恵まれました。予算がわずかしかない中で、任意後見人の中倉美智子さんとボランティアのキヨカさんが必要な物を手作りしてくれ、無事終えることができました。

 でも肝心の私は、人と接する訓練を念入りにしていたにもかかわらず、実際に人が来ると逃げたり隠れたりしてしまいました。ほぼ誰とも話をしないままでした。

 「あの時チャンスがあったのに…」「あと少し勇気があれば『私は認知症です』と言えたのに…」。悔し涙は止まりません。

 その後、しばらく治まっていた感情の起伏が再び激しくなり、ささいなことで怒るようになりました。周りの人にも当たり、自分がどんどん嫌な人間になっていきます。

 7月の受診日、私の心は重く、今にも張り裂けそうでした。「先生お願いです。どこでもいいから入院させてください」。懇願する私に、主治医は「入院はこの次に考えましょう。今は福田さんの気持ちが変わるような楽しみを見つけてみませんか」と言いました。でも私の耳には入りません。せっかく抜け出した苦しいトンネルに逆戻りしたら駄目だと分かっていても、どうにもなりませんでした。

 そんなとき、中倉さんからアドバイスがありました。「ねえ。息子の色鉛筆が引き出しから出てきたの。これで絵でも描いてみたら」。成人して家を出た息子さんが、子どもの頃に使っていたという色鉛筆を手にしています。

 私はもともと絵を描くのが好きでした。でもそれは学生時代までのこと。恐る恐る色鉛筆を握りました。すると目の前に置かれた白い紙に、思い切り表現できたのです。

 何もかも忘れて夢中で描く日が続きました。暗闇のトンネルに、オレンジ色の光が差しているように感じました。

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 ふくだ・ひとし 1962年、山口県岩国市生まれ。2014年、51歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断される。15年に「認知症サポート壱行の会」設立。長崎県認知症疾患医療センターに相談員として勤務する傍ら、当事者による全国組織「日本認知症本人ワーキンググループ」理事として政策提言もしている。

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