石木ダム反対、座り込み1000回 出口の見えぬ闘い続く 長崎・川棚町

 新年を迎えても、いつもと変わらぬ光景だった。長崎県川棚町の石木ダム建設予定地。県が進める関連工事の大型車両が行き交うそばで、ダムに沈む古里からの立ち退きを拒む住民や支援者が座り込む。約4年半にわたり続けてきたその日数は、12日で通算千回に到達する。県との対話が細る中で、静かな闘いが続く。

 5日、今年最初の座り込みに40人が集まった。午前10時前、いつもの「おやつタイム」。持ち寄ったミカンや菓子を食べ、コーヒーを手に談笑する。それを県職員が監視するのも、すっかり日常となった。

 ダム予定地で暮らす13世帯43人の一人、岩本宏之さん(76)は座り込みを始めたときから、ずっと輪の中心にいる。

 「おい(私)はね、ここにある自然の恵みに生かされてきた人生やけんね」。時をみて猟銃を担いで山道を歩き、イノシシの痕跡を探し、わなの位置を調整する。160キロの大物を捕らえたこともある。

 幼い頃から、結核を患った父に代わり母と家庭を支えた。田畑を耕し、炭やシイタケ、タケノコを町で売った。ダムがせき止めることになる石木川のウナギは貴重なタンパク源。食糧難を生き抜き、4人の弟と妹の学費を賄えたのは、かけがえのない自然のおかげだと感謝している。「先祖代々の古里。金を積まれても、圧力をかけられても離れる気はない」。意思は揺るがない。

 座り込みは2016年7月25日、ダムに水没する県道の付け替え工事を県が再開したのをきっかけに、工事現場の入り口で始めた。休日や年末年始を除くと、酷暑も風雪も関係なく、ダム建設反対を訴え続ける。

 17年1月、県が日曜早朝に初めて重機を入れた。住民たちは監視カメラを据え、テントで夜を明かし、重機の前で体を張った。それでも工事は少しずつ進んだ。現在は1・1キロの道路用地で約140メートルの区間に座り込み、完成を阻む。

 支援の輪は全国に広がっているが、地元には厳しい目もある。

 ダムによる治水の恩恵を主張する川棚町の議会は、建設賛成の議員が圧倒的多数。昨年12月の一般質問では「自分中心の言動では支持できない」と、座り込みを非難する議員もいた。

 県は「地権者の約8割が同意した」と事業の正当性を主張する。土地収用法に基づき、13世帯の家屋を強制排除する権限も得た。中村法道知事の判断一つで排除も可能だ。

 「一度も同意していない事業がどんどん進められていく。抵抗するのは当然のこと」と岩本さんは反論する。町職員だったので、公権力の強さも、危うさもよく分かる。

 知事と住民の対話は19年9月以降、途絶えたまま。住民は県道工事の中止が対話の条件としているが、県は応じていない。

 間もなく千回を超える座り込み。参加者の多くは高齢で持病がある人もいる。「県はいつまでこげんこと続けさせる気か」。出口の見えない状況に、岩本さんはいら立ちを募らせている。 (岩佐遼介)

【ワードBOX】石木ダム事業

 長崎県と同県佐世保市が治水と水道水源の確保を目的に、川棚川支流の石木川に計画。1975年に国が事業採択した。当初の完成予定は79年度だったが、現在は2025年度を目標にしている。立ち退きを拒む13世帯の土地や建物は、土地収用法の手続きにより、19年9月に所有権が国へ移転。県は強制撤去できる行政代執行が可能になった。

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