「最後のとりで」に行き着けない…減り続ける養護老人ホーム

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 高齢者のセーフティーネットである養護老人ホームが、全国で減少傾向にあることが分かった。介護保険制度とは別に、行き場のない人を支える公的施設だが、入居権限を持つ市町村の利用控えが指摘され、役割さえ認識されていない面もある。「最後のとりで」とされる養護老人ホームの役割は終わったのだろうか。

 昨年11月22日、福岡県筑前町の養護老人ホーム「朝倉苑」。今年3月末の閉所を前に、入居者は順次、別の施設に移っていた。残っていた人のうち、ここで8年ほど暮らす女性(79)は「体調を考えると本当にお世話になるのは今から。慣れた職員さんと離れるのは悲しい」と口にした。

 施設は定員50人。入居は2012年度に採算ラインの40人を切り、本年度は15人になった。赤字を母体の社会福祉法人が埋めており、組坂敏和施設長は「もう限界だった」と明かした。

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 朝倉苑に入所措置するのは、地元の筑前町と、隣接する朝倉市が多かったという。閉所に至るほど、利用を必要とする人はいなかったのか。

 同町の70代女性は心疾患があり、車いすで1人暮らしをしていた。要介護1。生活保護を受給していた。

 介護保険サービスを利用していたが、入退院を月に数回繰り返し、転ぶと立ち上がれない。自炊で栄養も偏りがち。心停止の恐れがあり、ケアマネジャーが町に入所を相談した。

 結果は対象外。要介護認定を受け、子ども2人が県内にいるためだった。子どもは女性からお金の援助を受けるほど困窮していたが、答えは同じだった。

 同じ町の90代女性は1人暮らしで要介護1。薬の飲み忘れが多く、部屋で倒れているのをデイサービスの職員に発見され入院した。

 退院できるまで回復したが、もう1人暮らしは難しい。子どもは町外にいて引き取れない。町の判断は、対象外。入院を続けた。

 担当したケアマネジャーの女性は「2人とも自己管理が難しく、食事や服薬、健康面を見てくれる養護老人ホームがいいと思った。90代の女性は退院できれば体力や認知機能が維持できたと思う」と首をひねる。

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 養護老人ホームは病院受診や健康診断、家計管理、生活相談など暮らし全般で支援を受けられる。ただ、市町村が施設に支払う入所措置費は、定員50人だと最低でも1人当たり月17万円台。高齢者の自己負担分を引いても荷は重い。

 筑前町の地域包括支援センターに勤めていた女性は「『措置費は町の全額支出』という相談しにくい雰囲気があり、よほどの人でないと町に入所を提案しなかった」。国が4分の3を負担する生活保護や、介護保険サービスの利用を優先したという。

 町が入所措置したのは05~14年度が11~15人。その後は10人を切り、20年度は6人。町は緊急支援が必要な高齢者に11年、制度とは別に養護老人ホームなどに一時滞在してもらう独自事業を始めており、担当者は「措置は入所判定委員会の開催などに時間がかかる。複雑な問題を抱えた人は緊急対応が必要で、一時滞在中に別の行き先が決まることが多かった」と説明した。

 朝倉市の措置は10~19年度末、24人から12人に。死亡などで減ったという。担当者は「新たな入所の相談は少ない」。両市町とも利用控えは否定した。

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 全国老人福祉施設協議会(東京)によると、入所措置の減少は、市町村が費用を全額負担するようになったことの影響▽高齢者住宅の増加や、在宅での介護保険サービス利用など選択肢の多様化-などがあるという。

 制度の理解不足もありそうだ。老人福祉法は困窮などにより自宅で暮らせない高齢者を入所させるよう定めるが、協議会には施設から「市町村に、予算がないから措置しないと言われた」との声が寄せられる。

 さらに昨年には、北海道松前町がホームページ上で財政負担を理由に「新規の入所申し込みは原則、受け付けていない」と掲載していたことが発覚。法と食い違い、訂正に追い込まれた。

 協議会の利光弘文・養護老人ホーム部会長は「高齢者が在宅生活を望んでも、健康面で限界を超えていることもある。制度の正しい理解が必要」と求める。 (編集委員・河野賢治)

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