盃の口縁はキッスの味

西日本新聞 社会面 糸山 信

 地方の支局勤務では窯元を取材する機会も多い。相手が左党と分かれば、これ幸いと酒器について尋ねてきた。

 福岡県八女市星野村の陶芸家で、詩人でもある山本源太さん(78)に8年前に聞いたのは、器の縁「口縁(こうえん)」の話。口縁が接する瞬間の唇の感触にこだわり、「官能的なキッスの味」と表現した。以来、理想的な“キッスの相手”を探し続けている。

 昨年末、新たな出会いを演出してくれたのは、ろくろ職人として佐賀県有田町の老舗メーカーで長年皇室御用達の食器を担当した村島昭文さん(85)。ひねり出した有田焼の薄手の杯は、口に触れた際の感覚が「芯があるのに柔らか」。酒が回る前から飲み手を酔わす“名人”だった。

 年が明け寒さが一段と染みるようになった。人との交わりが限られる昨今だからこそ、自宅での杯選びからが楽しみの時間。人肌ほどにかんをつけ、職人方とのご縁を思い返している。 (糸山信)

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