【除脂肪体重を増やそう】 鯉川なつえさん

◆健康は見た目より中身

 寒さが厳しかった年末年始、たすきをつなぐランナーたちをテレビで見ながら「こんなに痩せているのによく走れるなぁ」と思った人は多いだろう。今年の目標は「ダイエット!」と書かれた年賀状を見るたびに体重は人々の大きな関心事だな、と実感する。

 しかし、最も注目するべきは「体組成」なのだ。体重の主要素の「脂肪量」と、体重から脂肪を除いた主に筋肉や骨、臓器、水の「除脂肪体重」は健康と寿命に密接に関連している。過剰な脂肪量は有害であると理解されているが、除脂肪体重の大部分を占める筋肉が健康に有益であることはあまり知られていない。

 最近は体重計でもおなじみの「BMI」。Body Mass Indexの略で、体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割って算出する。日本では22が標準体重とされる、この肥満指数は、身長に対して太りすぎかどうかは分かるが、脂肪量と除脂肪体重は区別できない。ある研究では、痩せた不健康な人(低BMIで低除脂肪体重)は、痩せた健康な人(低BMIで正常な除脂肪体重)より死亡リスクの高い疾患が増加する可能性が指摘されている。若い女性に急増しているヤセの隠れ肥満は、体組成計でチェックするしかない。

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 除脂肪体重が重要な理由は幾つもある。アスリートには競技力向上に直結する。私はまさに今の時期、冬期トレーニング前後に除脂肪体重を測定し、トレーニング成果を判定する指標にしている。

 私たちの研究では、除脂肪体重増と成長期の身長の伸びには相関関係があることが分かっており、除脂肪体重の増加は、成長スパート期に入ったジュニアアスリートの身長を伸ばす後押しとなる。

 除脂肪体重が多いほど、安静時に自然消費するカロリー量である基礎代謝量が大きくなる。基礎代謝量は一般的に加齢とともに低下する。厚生労働省の年代別基礎代謝量をみると、小学5年の私の息子は1330キロカロリー/日で、私は1150キロカロリー/日。悔しいが、息子と同じ量の食事をとると太ってしまう。しかし除脂肪体重を増やせば、息子の食べる姿をうらやましげに眺めなくて済むわけだ。

 除脂肪体重の恩恵が最も大きいのは高齢者だ。日常生活における動作や姿勢、バランスの改善はもちろん咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)を助け、骨の強度と密度を高めることができることから、転倒や骨折につながる骨粗しょう症の予防となる。糖尿病、うつ病や認知症の予防も期待されている。

 新型コロナウイルスが猛威を振るっているが、除脂肪体重の多いマウスは少ないマウスよりウイルス感染にうまく対処できたことを、ドイツの研究グループが報告した。感染予防は1に手洗い、2にマスク、3、4がなくて5に除脂肪体重といったところか。

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 では、除脂肪体重を改善するにはどうすればよいか。私たちは加齢とともに体重が変わらなくとも体組成に変化が生じる。40歳代半ばから除脂肪体重が減り始め、徐々に脂肪量が蓄積し、80歳までに除脂肪体重の30~40%が失われるともいわれている。

 年齢を重ねるにつれて除脂肪体重の改善は難しくなるが、90歳代でも増えるというデータもあり、遅すぎることは決してない。最善の方法は筋力トレーニングだ。サイクリングや階段上りを家事や買い物などの日常生活の中で意識して実行すれば役に立つ。

 駅伝のランナーたちは、ただ痩せているのではなく、最適な除脂肪体重を獲得しているから走れるのだ。2度目の緊急事態宣言下、適切な環境で運動を自粛する必要はない。自分の命を守るため、除脂肪体重を増やしていこう。

 【略歴】1972年、福岡市生まれ。筑紫女学園高-順天堂大卒。陸上長距離選手として活躍。同大スポーツ健康科学部准教授を経て2019年から現職。スポーツ健康科学博士。同大陸上部女子監督。14年から同大女性スポーツ研究センター副長。

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