「コロナが差別ひどくした」感染世界最悪の米国、深刻化する貧困 

 新型コロナウイルスの感染状況が世界最悪の米国で貧困問題が深刻化している。コロナ禍に伴う失業で収入減に追い込まれるなど、日々必要な食料すら買えない世帯が増えているためだ。全米各地でボランティアによる支援活動が広がるが、民間任せでは限界もある。支援の現場をルポした。

 クリスマスを3日後に控えた平日朝、南部バージニア州アーリントン郡の倉庫前に50人ほどが列を作った。民間団体AFACによる「フードバンク」と呼ばれる食料の無料配布を待つ人たちだった。スペイン語で会話するヒスパニック(中南米系)が目立つなど、マイノリティー(人種的少数派)がほとんどだ。

 寒空の下で待つ彼らに話を聞こうとカメラを手に近づくと、アジア系の女性から「撮るな」と怒鳴られた。多くは記者と目を合わせようともしない。

 短時間、か細い声で事情を語ってくれた白人女性のジェイミーさん(34)はスーパーのレジ係で生計を立てる。「感染が怖くて勤務を減らしているのでお金がない」といい、コロナに感染した友人の分も含め、この日初めて訪れたという。

 首都ワシントンに隣接するアーリントンは、全米の「住みたい街」ランキング上位の街。住民の6割を占める白人を中心に所得水準は高い。家賃が割高のため、中低所得層にとって生活費負担が重くのしかかる。

 「仕事があっても時給7・25ドル(約750円)程度のその日暮らし。彼女のようなワーキングプアはこの街には多い」。AFAC職員のヒューストンさん(35)が説明した。

■4割が「食料不足」

 大量の失業者が生じた新型コロナ禍以降、家庭の食料不足が全米で急速に悪化している。コロナ禍前、食料確保に問題を抱える国民は11%だったが、コロナ禍後は38%まではね上がったとの調査結果もある。ある地域では食料品の万引が激増したと報じられた。

 困窮する市民を支える活動の一つが、教会や非営利の民間団体などが展開するフードバンクだ。

 週1回、食料を無料支給するAFACの場合、コロナ感染や失業が深刻化した昨年3~7月の利用者が、通常の33%増となる延べ約5千世帯(約1万2300人)に急増。年が明けても高止まりの状態が続く。利用者の7割以上をヒスパニックや黒人が占める。

 郡からの補助金以外、公的支援はないが、農家や地域住民が食料を無償提供し、食材購入に必要な現金寄付も増えている。取材中、食料がいっぱいに詰まった段ボール箱が次々と倉庫に運び込まれていた。

 支援の輪は広がっている。アーリントンなどでステーキ店を経営するビューカーさん(52)は、昨年末から子供の利用が多いワシントンの公共施設に冷蔵庫を設置。他の飲食店主と連携してパスタなどの料理を日替わりで用意し、希望者が自由に持ち帰ることができる活動を始めた。

■苦境の中に光も

 「この食べ物のおかげで家族が押しつぶされずに済んでいる」。昨年末、自身と2人の子供に必要な食料を受け取るためAFACを訪れた黒人のシングルマザー、クリンクスケルさん(38)は、地域の善意に感謝の言葉を繰り返した。

 学校向けの給食事業を展開する団体の料理人だったが、コロナ禍の影響で昨年6月に失職。小学生の息子(8)が自宅アパートでリモート授業を受けることが多くなったため、なかなか再就職が決まらない。

 家族を養うには月4千ドル(約42万円)は必要だが、今は家賃も含めて行政などの支援が頼み。近所で立ち退き要求の貼り紙を見かけたこともある。「コロナは黒人の貧困や差別の問題をもっとひどくした」と怒りがにじむ。

 黒人の中にはパソコンや車も持たず、支援情報すら知らない人も少なくない。黒人の感染率が高いとの情報が広がった後、息子が近所の犬をなでようとすると、飼い主から嫌な顔をされたこともあった。

 新型コロナのワクチン接種が始まったが、関心はいまひとつ。「あるわけがないけど、貧困から脱出できるワクチンがあればいいのに…」とつぶやいた。

 年が明けた今月5日、クリンクスケルさんにビデオ通話で連絡すると「クッキーを焼いた」と笑顔が返ってきた。少しでも恩返しをしようと、もらった食材の一部を使ってAFACの職員やボランティアに差し入れするのだという。

 年末年始に好条件の求人情報が立て続けにあった。何より自身が投票したバイデン次期大統領と、同じ黒人のハリス次期副大統領は雇用回復や差別解消を政権公約に掲げており、生活改善への期待は高まる。

 「トンネルの先に光が差してきたような気がしている。きっといいことがあると信じている」

 (ワシントン田中伸幸)

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