「禁断の酒」の異名も…芋焼酎王国に国産“アブサン”

 「アブサン」と聞いてピンとくる方は、野球漫画「あぶさん」ファンか酒好きか。ハーブのニガヨモギを主原料にした蒸留酒で、その魅惑的な色などからついた名は「緑の妖精」。40~80度とアルコール度数が高く、ゴッホら多くの芸術家がひらめきを求めて愛飲してとりこになったため「禁断の酒」の異名も持つ。そんなアブサンが近年、薩摩半島の蔵元で造られているという。日本ではなじみが薄い一風変わった酒が、芋焼酎王国でどのように誕生したのだろう。蔵元に向かった。

 手掛けたのは、1908年創業の佐多宗二商店(鹿児島県南九州市頴娃町)。ベースの芋焼酎に、自社で栽培した無農薬のニガヨモギに加え、スターアニス、昆布、梅など約40種類を漬け込んで蒸留し、2018年から「アブサン・クスシキ」を売り出している。「レシピの組み合わせは無限。しかも同じ材料でもシェフの蒸留次第で味も香りもまったく違ったものになる」と中原章仁製造本部長(52)が説明する。

 アブサンはスイスで造られ、フランスやスペインなどに広がった薬草酒。ベースとなる酒に決まりはないといわれ、ニガヨモギやアニスなどのハーブを使うため独特の匂いや色が特徴となっている。

 「クスシキ」は薬という言葉の語源とされる「くすしき」を活用。「不思議な」や「神秘的」といった意味があるという。年ごとに趣向を変え、18年のものは淡い緑、19年は澄んだ青、20年は若葉色をしている。爽やかな見た目とは裏腹に、いずれもアルコール度数は50度超。揺れる液体が妖しくほほ笑んでいる。

 水を加えると乳白色に変わる。ハーブのバタフライピーによる青は、レモン果汁を入れると紫になる。色彩変化はどこか魔法を見ているようだ。

 恐る恐るグラスに顔を近づけると、スパイシーなハーブ特有の香気が漂う。滋味あふれる複雑性の中に甘みも感じられ、思いのほか飲みやすく感じた。

 「コアなファンがいて、食後酒にお薦め」と佐多宗公社長(50)。自身は酒が飲めない体質だというが「だからこそ酒そのものの味は分かる。デメリットではない」と笑う。

      ◇   ◇

 アブサンの製造を支えるのは「蒸留クリエーター」を自負する佐多さんらの技術だ。社員・パート計20人弱規模の蔵元で、6タイプ9台の蒸留器を備えるのは異質だという。

 きっかけは、日本で焼酎ブームだった2002年ごろ、佐多さんが販路拡大のために向かった欧州にあった。しかし現地では芋焼酎の評判は芳しくなかった。「同じ蒸留酒なのにどう違うのか」。ブランデーの蒸留所などを回って職人の考え方や技を学ぶようになった。

 それまでの焼酎造りでは、原料の芋やこうじに目を向けることはあっても、「蒸留すれば似たような味になる」という理由から蒸留器への関心は低かった。芋焼酎の蒸留は釜に焦げ付かないように、粘性の高いもろみに蒸気を当てる直接加熱がほとんどだという。だが、世界の蒸留器は釜の外側を蒸気で温めてから中に熱を伝える間接加熱が主流だった。

 さっそく05年にイタリア製の間接加熱蒸留器を購入し、06年には西洋風の赤屋根の製造所が完成。08年にはドイツ製蒸留器も設置し、じっくりことこと蒸留するともろみの香りが際立ち、余韻も長く残る酒ができた。「蒸留こそが酒の質の幅を広げる」ことに気づいたという。

 芋焼酎をベースにしたオリジナル蒸留酒の「AKAYANE」シリーズを18年から展開。サンショウのスピリッツや緑茶のジンなどがあり、アブサンもその一環だ。

 1回の蒸留で約1500リットル生産できる直接式に対し、ドイツ製の間接式では40リットルほど。少量生産ゆえに、量販店では販売していない銘柄も多い。新型コロナウイルスの影響も心配の種であるが、歩みは止めない。

 中原さんは「バーテンダーが使うのは洋酒ばかり。その中で芋焼酎をベースにした和の酒の存在感を示し、世界中の人に飲んでもらいたい。アブサンもそのための一つで、さらに蒸留を究めたい」と夢を語る。

 興味本位だった自分が恥ずかしい。アブサンから、職人が多様な蒸留酒の源流に位置づける芋焼酎への情熱を味わった。

 (河野大介)

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