加藤シゲアキさんも候補…直木賞だれに? 文芸アイドル西田さん×酒井信さん対談

 第164回芥川、直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が20日、東京の料亭・新喜楽で開かれる。全6作が初候補となった直木賞の展望を明治大准教授の酒井信さんと文芸アイドルで書評家の西田藍さんが語り合った。

-芦沢央さんの「汚れた手をそこで拭かない」は「世にも奇妙な物語」のような短編集。

 西田 最初の作品はそれほどでもないが、読み進めると後味の悪い嫌な話が続く。小さな悪事が大きな悪事に発展していく。後味の悪い話が好きで、(サイン会にかつての交際相手が訪れる)最後の話が一番怖かった。

 酒井 最後の短編は私小説っぽい。こういうことがあったのかと思わせる。

 西田 サイン会に嫌な思い出の人が来たらどうしようと考えたことがある。以前、私の母のことが好きだったという人がイベントに来たときは、母との関係も分からなくてすごく怖かった。

 酒井 小学校の先生がプールの水を出しっぱなしにして損害賠償におびえるという話も怖い。日常のほころびを取り繕おうとする悪意のようなものが、深みのある内面描写で展開される。候補作で最も(純文学的で)芥川賞寄り。面白く読んだが、(同様の作風の)辻村深月さんに比べると非合理的な執着心のようなものが足りない。

-タイトルの意味をどう受け止めた?

 西田 登場人物が正しい手段で問題を解決していないということだと思う。

 酒井 そんな感じですよね。汚れた手で拭いたら別の場所に汚れが移ってしまうという。

 酒井 タイトルが一番分かりやすく出ていたのはプールの話。ほころびがどんどん広がり同僚にもつけ込まれる。小役人的な話を外堀から攻めていくのはゴーゴリ的で、文学の基本を短編でも押さえている。エンタメ性がありながら芥川賞作品のようなうまさがある。

-「八月の銀の雪」の伊与原新さんは地球惑星科学を専攻し東京大で博士課程を修了。自然科学が随所でモチーフとなっている。

 酒井 西武新宿線の大学生のささいな話から、地球の内核に鉄の雪が降り注ぐ情景にまで持って行った。学問領域が広い地球惑星科学を物語の節々でうまく昇華させている。単に理系というだけでなく、厳選した題材で物語の情景を浮かび上がらせた個性が際立つ作家だ。

 西田 読者に説明するために科学を知らない人物が数多く登場するが、それが無理やりという感じが一切なかった。科学の要素が自然に盛り込まれていた。

 酒井 登場人物の人生がそれぞれ切実だった。最後の話で福島を目指す原発の下請け会社元社員のような生活に根ざした人たち。テーマを消化しつつ人物の実存を感じさせるところがいい。海外なら科学者のSF作家は割といる。西田さんはSFがお好きですよね。

 西田 はい。SFだと自然科学を取り入れたものもあるが、初めて出合ったタイプの小説。もっと宇宙が絡んできたり、実生活からかいしたりするSF作品をよく読んできた。

-アイドルグループ「NEWS」メンバーの加藤シゲアキさんは高校生の青春小説「オルタネート」で候補入り。

 西田 舞台のモデルはチャペルなどの雰囲気から加藤さんの母校の青山学院ではないか。ラジオ番組でご一緒したときに制服や自由な校風について伺った。私は青春物があまり得意でないので構えて読んだが、高校を中退した男の子や無理して学校に入った子が出てきて、きらきらしていない生徒たちを丁寧に書いているところが良かった。ラストはいろんなクライマックスを書いていたが、もう一押しが欲しかった。

 酒井 料理コンテストが出てくるが、例えば恩田陸さんは直木賞受賞作「蜜蜂と遠雷」で音楽コンテストを描いた。小説では音楽を奏でられないけれど、宮沢賢治の詩が音楽で表現されるなど工夫があった。味の表現をもう少し工夫すれば、もっと面白くなったのではないか。

 芸能の世界をご存じなので、そこでの青春小説も読んでみたい。参考になるのは又吉直樹さんの「火花」。芸事の世界が青春として昇華されていた。本作にもジャニー(喜多川)さんのような人物が出ていたら怪しさが一層高まって良かったのではないか。

-「オルタネート」という高校生限定のマッチングアプリの設定はどうか。

 西田 結構さらっと書いている。私が10代の頃にもあった交流サイトのようなノリ。オルタネート信者の子が出てくるが、そこまで信者ではない。現代の高校生を描こうとしたのではないんじゃないか。そう考えれば逆に読みやすかった。彼らが置かれている状況に普遍性があった。

 酒井 もっとやばい感じのマッチングがあると良かったかもしれない。理不尽な宗教のようなマッチングとか。

-優等生的に書いている?

 西田 加藤さんを知っているからこそ別の物語を期待してしまう。加藤さんも、求められているものを知ったうえで書いているのではないか。だから優等生のような作品に見える。

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