「お酒の不公平」なくしたい ノンアル市場の開拓目指す 播磨直希

シン・フクオカ人(18)

 壁に何度ぶつかっても力がわいてくるのは、自分のためじゃないからこそかもしれない。

 播磨直希(28)が目指すのは、「下戸じょう」の開拓だ。お酒が飲めない人、飲みたくない人も一緒にグラスを傾け、楽しい会話に酔いしれる文化を定着させたい。そのためのノンアルコールドリンクを開発した。

 ここ福岡市から飲料メーカートップを目指す。2019年春に立ち上げた会社は、酔いの文化を探求する「YOI  LABO(ヨイラボ)」と名付けた。

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 いつか起業を、と学生の頃からねたを探していた。自分は酒好きだが、周囲は飲めない友人ばかり。宴会に誘っても来てくれない。ならば良く効く「酔いざまし」を作ろうと考えたが、そこが問題ではなかった。「そもそもお酒を飲みたいと思わない」「代わりに飲みたい物もない」。予想外の本音に衝撃を受けた。

 日本はアルコール分解酵素の働きが弱い人が多く、半数の大人は少量でも頭痛やどうを起こす。ところが飲めない人の選択肢は少ない。ノンアル飲料はお酒の味に似せた代替品にすぎない。お茶や炭酸水は何杯も飲めないし、ジュースは甘くて食事に合わない。

 聞き取りでは他にも不満が噴き出した。ウーロン茶を頼むと、店側からも白い目で見られる。飲む物がないのにいつも割り勘-。“偏見と差別”にモヤモヤしている人が多かった。

 飲めない人が「今夜、飲もうよ」と言いたくなるノンアル飲料を作れば「お酒の不公平」をなくせる。胸が高鳴った。

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 着想から起業、資金調達、商品開発まで、1年余りでスピーディーに進んだ。

 お酒でもソフトドリンクでもない、食中に楽しめる「ミドルドリンク」。お茶と果汁をベースに二つのブランドを設け、ハーブやスパイスを掛け合わせて計5種類を作った。ワインソムリエ監修の下、料理を引き立てる風味に仕上げ、高級料理店に狙いを定めた。営業の手応えは十分だった。

 時は2020年春。予想だにしなかった災難が直撃する。新型コロナウイルスが広がり、政府が4月に緊急事態宣言を出したのだ。商品発表は5月、飲食店の多くがシャッターを下ろしていた時期に重なった。

 それでも、ミシュランの星付きレストランなどから予約注文は入った。しかし今度は、初出荷予定の2000本が全て廃棄処分となってしまう。製造規模を試作段階から一気に拡大したため、風味が変わったのだ。製造方法も販売計画も一から見直した。

 第2弾商品の限定発売を始めた11月下旬、新たなトラブルが発生する。在庫品にわずかな「カビ」が見つかった。工場は国の殺菌基準を満たしているのに…。

 購入者への連絡と謝罪、商品回収、返金に追われる一方、検査機関による分析や原因調査は時間がかかった。殺菌方法を基準以上に厳格化することで製造再開の見通しが立ったのは、今月に入ってからだ。

 この間、調査に進展がなくても経過を逐一公表した。購入者からは「もっとファンになった」とエールが届いた。経営者として大切なことをまた一つ学んだ。

「Pairing Tea」(左の3種類)はお茶ベースで、肉や魚などの食材を引き立てるドリンク。「THE MID」(右の2種類)は果汁ベースで、より幅広い料理と合わせられる=YOI LABO提供

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 大学卒業後、すぐに起業して、ここまで来たわけではない。就職してプログラミング、営業、マーケティング、釣りメディアの編集長など、さまざまな経験を積んだ。

 物事にこだわらないタイプで、大抵のことは「中の上」くらいまでこなせる。起業に憧れたのも、ドラマの中のIT社長が格好よかったから。小栗旬の恋人役が石原さとみだったからかもしれない。

 でもある日、この上ない興奮を味わってしまった。見知らぬ釣り人から「便利ですよ」と薦められたのは自分が関わったアプリだった。「マジすか! いつも使ってます」。自分の仕事が誰かを幸せにしていることが、心底うれしかった。

 起業して、ゼロから何かを生み出したい。修業したベンチャーで、さらに思いは募った。大企業と少人数のベンチャーでは、事業の展開がまったく異なる。スピード感、達成感、敗北感さえも、まるで「麻薬」のような快感を覚えた。

 今、その快感のさなかにいる。トラブル続きで「人生のどん底」とも思える。でも、この事業だけはとことんこだわりたい。

 「血へどを吐いてでも、この事業で世界を変えたいんです」

 =敬称略(山田育代)

■YOI LABOの公式サイトはこちら

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