「防疫なくして経済なし」対コロナ”台湾モデル”、衛生相が語る要

 新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く抑えた台湾。封じ込めに成功した秘けつは何か-。台湾政府で新型コロナ対策を指揮する陳時中・衛生福利部長(衛生相)が西日本新聞のオンライン取材に応じ、迅速な初動や情報公開を中心とした「台湾モデル」の感染対策について語った。やりとりを詳報する。(聞き手・構成は久永健志)

 -台湾は約2350万人が暮らすが、累計感染者は900人に満たず、死者は7人にとどまる。なぜ感染を抑え込めたのか。

 「中国・武漢で確認された新型コロナ感染症にいち早く警鐘を鳴らし、迅速に水際対策を実施したからだ。未知のウイルスに対応するため、専門家で構成する特別委員会が防疫対策を練り、その対策を政府や疾病管制署(CDC)が確実に実行した」

 -日本も当初から水際対策を取ったが、感染拡大を阻止できなかった。

 「台湾はPCR検査による感染者の発見よりも、発熱などの症状がある人の隔離を重視している。検査で陰性と判定されても、実際は偽陰性のまま感染者が市中へ入る可能性があるからだ。入境時に感染の疑いがある人は集中検疫施設で14日間隔離される」

 -日本政府は経済への影響を恐れて強力な対策に踏み切れなかった。台湾では心配はなかったのか。

 「防疫が成り立たなければ経済も成り立たない、というのが台湾の基本戦略だ。経済優先で最初はうまくいっても、感染が広がれば経済活動は大きな打撃を受ける。逆に感染を抑え込めば経済回復につながる。この基本戦略を市民に理解してもらうよう努力した」

台湾衛生福利部長(衛生相)の陳時中氏(同部提供)

 「昨年4月ごろ台湾内の感染者がいなくなり、その1週間後に経済を開放しようという声が上がったが、私の答えは『もう少し待って』だった。2週間後も答えは同じ。結局、経済活動への規制を緩和したのは感染者ゼロが56日(8週間)続いた後だった。感染者がいなくなったことを十分に確かめるまで規制を緩めたくなかった。台湾の昨年の経済成長率は2・5%を超えた。これは防疫に成功すれば経済も回復することを裏付けている」

 -新型コロナとの闘いで大事なポイントは?

 「防疫措置や医療資源の確保といった『生理的な闘い』のほかに『精神的な闘い』への対応が重要だ。コロナ禍が始まった当初、台湾の市民は不安を抱いていた。この不安を減らさない限り全ての政策は行き渡らず、効果は上がらない。不安から市民がパニックを起こさないようにするために、感染状況と防疫措置の『公開と透明化』が必要だ」

 -政府の中央感染症指揮センターの指揮官として連日記者会見を開き、細かい質問に答え続けている。

 「市民は政策の意図や狙いを理解すれば従ってくれる。防疫に関する規制や罰則は必要だが、社会の中で市民が互いに思いやりを持ってケアすることはもっと重要だ。思いやりの気持ちがあれば、全ての防疫政策はうまく機能する。新型コロナとの闘いでは、国民が手を携えて一致団結することが極めて大事だ」

 -新型コロナの封じ込めに向けて世界各国は連携する必要がある。

 「各国の風俗や文化は異なるのでコロナ対策も一様ではない。ただ、私の経験から言えば、効率的で実践しやすい簡単なやり方が良いと思う」

 「世界にまん延する公衆衛生の問題を政治問題化してはいけない。台湾は世界保健機関(WHO)への参加を認められていないが、2300万人を超える台湾市民の健康権を無視しないでほしい。各国が情報を公開し共有することで、ウイルスを封じ込められるはずだ。防疫上の豊富な経験を持つ台湾は世界の役に立つことができる」

不眠不休、異名は「鉄人部長」

【略歴】1977年、台北医学院(現台北医科大)歯学部卒。2017年2月から歯科医出身の民間人として閣僚に登用され、蔡英文政権の衛生福利部長を務める。政府の新型コロナウイルス対策を主導する「中央感染症指揮センター」の指揮官も兼務。不眠不休でコロナ対応に当たる様子から「鉄人部長」と呼ばれ、高く支持されている。67歳。

■   ■   ■

オンライン取材に応じる台湾衛生福利部の陳時中部長=13日午後、福岡市の台北駐福岡経済文化弁事処(撮影・佐藤雄太朗)

インタビューを終えて

 「政治のリーダーシップ」の差-。コロナに打ち勝った台湾と、てこずる日本。日台の違いは何かという疑問から始まったインタビューを終え、これが一番の答えかもしれないと感じている。

 台湾での記者会見を終えスクリーンに現れた陳衛生相。連日の過密スケジュールの合間にお願いしたインタビューは、約束の30分を超え45分ほどに及んだ。その間、陳氏は資料を見ることも一切なく、全て自らの言葉で答えた。聞きしに勝る「鉄人」ぶりである。

 検査、隔離、情報開示…。日台がやっていること自体に大きな違いはなさそうだ。違うのは、徹底ぶりか。見えぬ敵を倒すために欠かせないのは、国民の理解と協力。リーダーの力が問われている。(久永)

 

関連記事

PR

国際 アクセスランキング

PR