バイデン新政権 まずは民主主義の再生だ

 首都ワシントンは連邦議会議事堂乱入事件の記憶がまだ生々しく、祝賀ムードに沸く大観衆の代わりに目立ったのは武装した兵士の厳戒態勢だった。重苦しい空気が漂う中での異例の船出である。

 米国の第46代大統領となったバイデン氏の就任式はトランプ前大統領の姿もなく、社会の分断やコロナ禍にあえぐこの大国の現実を際立たせた。

 だからこそだろう。バイデン氏の就任演説は過去のどの大統領にも負けぬほど、民主主義の尊さを訴え、国民に融和と団結を促す内容だった。

 「民主主義が勝利した。分断は深く現実のものだが、国民の結束に全身全霊を尽くす」

 その言葉に期待したい。これは米国に限らず、自由や民主主義という普遍的な価値を共有する国の人々の願いでもある。

■トランプ政治の教訓

 著名な米コンサルティング会社ユーラシア・グループが今年の十大リスクのトップに「第46代大統領」を挙げた。昨秋の大統領選を通じて米社会の分断の深刻さが浮き彫りになり、バイデン氏はトランプ氏を支持する半数近い国民から「不当に選ばれた大統領」と見なされ、内政外交とも困難に直面するからだという。トランプ氏が去っても「トランプ的なもの」はくすぶり続けるということだ。

 トランプ政治の最大の教訓は何か。民主主義は積極的に守ろうとしなければ、正常な機能は保障されないということだ。トランプ氏は米国が建国以来よって立ってきた民主主義や人権などには無関心で、その行き着く先が退任直前に支持者が引き起こした連邦議事堂への乱入という前代未聞の事件だった。

 いみじくも、女性初の副大統領となったハリス氏は昨年の選挙勝利演説でこう語っている。

 「民主主義の強さはそのために闘い、守り、決して当たり前のことだと思わないようにする私たちの強さに比例する」

 そのハリス氏を筆頭に、バイデン氏の閣僚・高官人事は性別や人種に配慮した布陣だ。多様性を尊重する姿勢こそ民主主義には不可欠とのメッセージであり、社会の分断を克服する決意と受け止めたい。

 新政権が直ちに取り組むべきは、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止め、経済格差の是正を急ぐことだろう。これを放置すれば「トランプ的なもの」の再燃を招きかねない。

■増える権威主義国家

 国際社会でも民主主義の後退は生じている。スウェーデンの調査機関によると、2019年現在で世界に民主主義国家と呼べるのは87で、権威主義的な国家の方が92と上回った。非常に気掛かりな数字だ。

 08年の経済危機によって多くの国で格差が広がり、既成政治に対する不満をすくい上げるポピュリズムや権威主義が伸長してきた。

 権威主義国家の代表である中国は主要国がコロナ禍に苦しむ間に自国の感染を抑え込み、ワクチンやマスクを供給する外交戦略で途上国への影響力を強めている。香港では民主派の弾圧を続ける。

 コロナ禍のような地球規模の課題への取り組みには国際社会の協調が不可欠である。中国の一連の動きは国際秩序を揺るがしかねず、民主主義に対する挑戦の面も否めない。

 バイデン氏が就任早々、地球温暖化対策のパリ協定や世界保健機関(WHO)への復帰を命じた。協調重視の姿勢を行動で示したと言え、歓迎できる。

 同時に就任演説では「同盟関係を修復し再び世界と関わり合う」とも述べた。中国との対立が先鋭化していくと見越しているのだろう。

 中国に対しては、日本など同盟国、友好国と連携し、民主主義の尊重を粘り強く中国に働き掛けていくべきだ。

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