もっと近くで見たい、触りたい… 願望かなえる「クローン文化財」

 「もうちょっと近づければ…」。昨年10月、奈良県斑鳩町の法隆寺金堂でそう思った。正面に鎮座するのは国宝釈迦(しゃか)三尊像。威厳は伝わるが、金網越しに鑑賞するしかない。堂内は薄暗く、金堂壁画も一部見えなかった。福岡県大野城市の大野城心のふるさと館で開催中の「東京芸術大学スーパークローン文化財展」は、そんなもどかしさを晴らしてくれる特別展だ。

 クローン文化財は、3Dプリンターなどの最先端技術や素材の科学分析、伝統的な芸術技法でよみがえらせた文化財の復元品。「劣化、消失した文化財を未来に継承する試みの一つ」として東京芸大が製作を進めている。

 一つの部屋全体を使った法隆寺金堂の再現コーナーから展示は始まる。中央に三尊像が置かれ、金堂壁画7面が取り囲む。BGMにお経を流し、室内にお香の匂いまで漂わせたこだわりようだ。何より近づけるのがいい。大きさを実感できるし、中央の釈迦如来像のアーモンド型の目、若干の微笑をたたえた口を間近で堪能できる。

法隆寺金堂を再現したコーナーでは釈迦三尊像を間近で見ることができる

 横に行ったり、後ろに回ったりできるのもクローン文化財展ならでは。三尊像は7世紀に鞍作止利(くらつくりのとり)が作ったとされ、前からの鑑賞を想定している。横から見れば、左手の造形などデフォルメされた部分が分かり、背後に刻まれた銘文も読むことができる。三尊像の由緒、聖徳太子と等身であることなどが記された銘文に、製作に関わった東京芸大特任准教授の平諭一郎さんは「目に触れることができない箇所なのでとても貴重」と言う。

 平さんに製作過程を聞いた。3Dスキャナー、プリンターなどを用いて三尊像の樹脂製原型をまず作る。それを元にした型に銅を流し込んで鋳造する。それからは伝統的なアナログ技術の出番。手作業でのやすりがけ。輝くブロンズ像に色づけをして、経年の風合いを出した。1949年に焼損した金堂壁画は、火災前に撮影されたガラス乾板(写真乾板)のほか、模写や美術史資料を参考に彩色を施して再現した。

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 クローン文化財は、単なる「複製」とは違う。例えば、展示されている中国の敦煌莫高窟(ばっこうくつ)第57窟。優美な作風で「美人窟」とも称される初唐時代の石窟だが、後世に加えられた像がある。復元は創建当時の姿を目指し、後世の像はあえて外した。

 ほかに、ゴッホの油彩や歌川広重、葛飾北斎の浮世絵の複製も並ぶが、こちらは「美術を知ってもらう入り口になれば」(平さん)と教育的な狙いもある。絵画はすべて触れることができ、油彩の凹凸、キャンバスの張り具合を体感できる。

 3Dプリンターなどの技術は日進月歩で進化している。だれもが高精度な複製を作れる時代はそう遠くないかもしれない。平さんは「文化財の背景や精神的な意味を含めて伝えていくことが重要になってくる」と強調する。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、オンライン、リモートが当たり前となった社会。所蔵品をネットで公開する美術館、博物館も増え、自宅から文化財を鑑賞できるようになった。それでも、やはり五感で味わうことは何ものにも代えがたい。こんな時代だからこそ、クローン文化財のありがたみ、可能性を実感した。 (小川祥平)

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