核禁条約「米は国際協調重視を」対話継続が鍵 タイ元外務次官に聞く

 【バンコク川合秀紀】発効した核兵器禁止条約を世界に先駆け2017年9月に批准したタイ。ノラチット元外務事務次官(66)は国連大使や東アジア局長などを歴任し、同条約のほか1997年発効の東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)の交渉を担った。核保有国と非核国の利害がぶつかる現場に立ち続けた外交のプロは「非核条約」の意義と課題をどう見ているのか。

 「私が国連大使だった時(09~15年)は核兵器禁止条約の交渉開始直前。核保有国や核依存国と、核廃絶を求める国が分断しており、条約実現には悲観的だった。それでも希望は捨てずやるべきことをした」

 ≪非核兵器国を中心とするワーキンググループが議論を進め条約成立の機運を高めていった。タイは議論を先導した国の一つ≫

 「だからこそタイが最初の批准国になった。議論の重要な結論は、やはり核兵器の恐ろしさ。私も被爆者と面会したり、各国代表と広島を訪れたりした。街が破壊され多くの人が犠牲になり、今も後遺症に苦しむ人々がいる。核兵器を使えば同じ結末になるという事実を、大半の国は認識させられた」

 ≪条約の原型となったのが一定地域での核兵器使用を禁じる「非核兵器地帯条約」。60年代以降に中南米やアフリカ、東南アジアなどが条約化した≫

 「地帯条約と核兵器禁止条約は密接にリンクしている。特にバンコク条約は、各国の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚を対象に含むと明記した唯一の地帯条約。域内の広い海域でも潜水艦や戦艦による核兵器使用などを完全に禁じる発想は今回の条約につながっている」

 ≪核兵器禁止条約と同様に、地帯条約の中でバンコク条約だけがいまだにどの核保有国も署名も批准もしていない≫

 「署名に合意した核保有国はあった。だが他国が先に核兵器を使えば核で反撃できる権利などの条件を加えることに反対する国や、核保有5カ国が同時署名しないと駄目だと拒否する国があった。タイとしては保有国が一つでも署名すれば他の保有国も追随すると考えるが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも意見は違う」

 ≪バンコク条約の経緯には米国の政権交代も関係がある。93年のクリントン政権誕生で従来の反対姿勢を転換して成立を後押しし、11~12年に核保有国の署名が実現しかけた際も09年のオバマ政権誕生による方針転換があった。同じ民主党政権であるバイデン政権の核戦略が注目される≫

 「一般論として言えば、非核条約も温暖化対策などと同じ多国間の協調。新しい米政権には一国主義ではなく国際協調を再び重視してほしい。核保有国には二つの非核条約に署名してほしい。それが願いだ」

 ≪バンコク条約にEEZと大陸棚を明記した狙いに、中国が自国領海との主張を強める南シナ海に将来核配備する懸念があったとの指摘がある。複数のEEZは中国の主張と重なり、南シナ海での衝突懸念は当時より高まる≫

 「条約交渉に関わった私の見方では、特定の目的や国に対抗するために条約を使う意図はなかった。海域を含めて非核兵器地帯にするためであり、私たちがコントロールできる各国のEEZと大陸棚の範囲では危険な行為を防ぐことができると考えたからだ」

 ≪日本のように核抑止に依存し、核兵器禁止条約署名に反対する国の動きも非核条約の将来を左右する≫

 「日本は核兵器の被害を経験した唯一の国だが、核抑止を必要とするかどうかを決めるのは日本の人々。核廃絶の取り組みでは、粘り強くさまざまな立場の国が対話と交渉を続けるしかない」

【世界の非核兵器地帯条約】冷戦期に核兵器開発競争が激化し、条約化が拡大。南極条約(1961年発効)を皮切りに▽中南米(68年)▽南太平洋(86年)▽東南アジア(97年)▽アフリカ(2009年)▽中央アジア(同)-などがある。日本外務省によると、中南米の条約には核保有全5カ国が批准。南太平洋とアフリカ、中央アジア各条約は核保有5カ国のうち米は署名のみで残り4カ国が批准。東南アジアの条約には5カ国とも署名・批准していない。

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