「天安門」後と意識異なる 麻生晴一郎氏   

◆香港と中国

 コロナ禍においても中国政府の香港への弾圧は着々と進んでいる。1月6日、民主活動家ら53人が「香港国家安全維持法」違反の疑いで逮捕された。この53人は立法会(香港の議会)選挙に向けて民主派などが昨年7月に実施した予備選挙の参加者たちであり、彼らの逮捕は、同選挙での民主派の台頭を阻止したい中国政府の意向からにほかならない。

 当然米国などは批判したが、今の中国政府に外から批判をしても効果はない。理不尽であればあるほど、都合の悪い存在を消そうとする中国政府の強い姿勢を感じさせるだけなのである。筆者の周辺でも「6・4(北京・天安門広場での学生デモを武力鎮圧した1989年の天安門事件)の後のように、中国政府は香港政府に働きかけて、香港の抵抗勢力を徹底的に潰(つぶ)していくだろう」(現地ジャーナリスト)といった悲観論が圧倒的である。

 では、香港の抵抗勢力は徹底的に潰されるのだろうか? 筆者は、そうはならず、香港は6・4後の中国のようにはいかないと考える。それは一般市民が直面する状況が異なるからだ。中国の89年の学生デモは多数の国民から支持されたわけではなく、当時の中国国民が抱えていたのはもっと豊かになりたい思いや、西側世界に対する経済・文化的なコンプレックスだった。

 香港の一般市民、特に若い人の状況はまるで違うし、西側世界への対抗といった中国国内の問題意識を分かち合うこともない。多くの人が英国式の教育を受け、経済的には中国の進出で先が暗くなる中、既存の制度・価値観が中国化によって崩れていくのを歓迎する理由などない。広範な市民が中国化を望まない限り、2019年のデモのように、新たな担い手による新たなデモが繰り返されるだろう。今年も来年も香港は不安定な状況が続くはずだ。

 あと一つ、今の香港についての大方の見方は、中国において今後も独裁体制が強化され続けるとの前提で成り立っている。だが、中国の情勢はけっして固定したものではない。今後中国国内で民衆の不満が増大し、政府の威信が下がるようなことがあれば、中国政府は今ほどの強気の姿勢を示し続けることはできない。香港の情勢は中国国内の情勢の変化とも大きく関わることを強調しておきたい。

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 麻生晴一郎(あそう・せいいちろう)ルポライター 1966年生まれ、北九州市出身。中国の農村問題、市民活動などを取材・執筆する。近著は「【負の世界記憶遺産】文革受難死者850人の記録」(共著)。

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