西スポ賞 2人の「走り」が心動かす

 そのスピードが放つ輝きと爽快感は、コロナ禍の世で沈みがちな多くの人の心に力を与えてくれたのではないだろうか。

 スポーツ界で優れた成績を収めた九州ゆかりの選手・団体をたたえる第66回西日本スポーツ賞がきょう、初受賞の若者2人に贈られる。ともに「走り」を極めようとしている2人だ。

 アマチュアは福岡大の児玉芽生(めい)選手(21)=大分県臼杵市出身=だ。昨年の日本学生対校選手権(インカレ)で陸上女子の100メートル、200メートル、400メートルリレーの3冠を達成した。日本選手権の100メートルでも優勝、短距離のエース候補に躍り出た。

 プロフェッショナルは、プロ野球パ・リーグで昨年の盗塁王に輝いた福岡ソフトバンクホークスの周東佑京選手(24)=群馬県出身=である。日米新記録となる13試合連続盗塁を決めるなどしてレギュラーに定着、チームの3年ぶりリーグ制覇と日本シリーズ4連覇に貢献した。

 力と技、そしてスピードを競うスポーツの中でも「走る」ことは基本といわれる。素人目にはシンプルな体の動きだけに、その質を向上させる努力には奥深いものがある。

 児玉選手は昨春以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い思うような練習ができない中、自宅での筋力強化で体脂肪を減らし、動画などで自身の走りを徹底的に研究したという。

 そうした積み重ねが昨秋、一気に花開いた。インカレの100メートル優勝タイム11秒35は、それまでの自己ベストを0・3秒近く縮める日本歴代3位の好記録だ。逆境にめげずにピンチをチャンスに変え、トップランナーに駆け上がった。郷土のファンにとって胸のすく躍進と言えるだろう。

 周東選手は育成ドラフト出身で、俊足を武器に2019年シーズンから支配下登録された。直線を走り抜ける技術、投手のフォームの分析や駆け引き、滑り込みなどを磨き、昨年は打撃力の向上も相まって50盗塁という圧倒的結果につなげた。

 アマとプロ、陸上は個人、野球は団体競技との違いはあれ、緻密な研究の継続と技術を習得する日々の努力が実を結んだ点は共通だろう。そこにある100分の1秒の世界で決する勝負に私たちは心を動かされる。スポーツが持つ魅力の一つだ。

 2人の挑戦は物事を極めようとする人への示唆にも富む。理想を追えば必ず壁も現れるが、その向こうにはまた新たな可能性が広がっている。若い世代に限らず手本にもしたい。

 夏に予定されている東京五輪に児玉選手、周東選手ともに出場を目指している。2人のさらなる飛躍に期待したい。

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