双葉町の今、怒りと悔恨、そして悲しみ 豊田直巳さんが新作写真絵本

 福島第1原発事故の被害地域の取材を続けるフォトジャーナリスト、豊田直巳さん(64)が写真絵本「『明るい未来』を子どもたちに 原子力に未来を夢みた町に生きて」(農文協)を刊行した。事故から10年の節目に、原発があり、今も多くの帰還困難区域を抱える福島県双葉町からの避難生活が続く大沼勇治さん(44)の無念の思い、変わりゆく町の姿に写真と文章で迫っている。

 大沼さんは、双葉町に生まれ育った。事故後、福島県会津地方へ避難。愛知県を経て、現在、茨城県で妻と小学生の2人の息子と暮らす。町内は中心部のごく一部などを除いて立ち入り規制が続き、まだ居住者はいない。

 小学6年の時、宿題で書いた標語「原子力 明るい未来のエネルギー」が入賞し、町中心部の看板に掲げられ、シンボルとなった。当時、原発とともに高層ビルが建ち新幹線が走る未来を夢見た。だが、今、原発は「明るい未来」を奪っている。

 収録した写真は、一時帰宅した大沼さんが自宅の部屋や母校・双葉北小の体育館前に立ち尽くしたり、墓参したりする姿などとともに、朽ちて解体された家々や草木に埋もれる公園、除染土入りの黒い袋の山など、町内の風景を記録した。

 写された大沼さんは、ほとんどマスクに放射線防護服姿だ。食堂、喫茶店、薬局、食料品店、クリーニング店…。なじみの店が解体され姿を消す。釣りをした川も、海への道も雑草に埋もれて、もうどこだったか分からない。「変わりゆく、変えられていくふるさと」を記録しようとカメラを構え、いつ終わるとも知れない廃炉作業が続く原発そばの海岸を歩く。大沼さんの表情からは、怒りや悔恨、悲しみ、さびしさなど多くを含んだ濃くて深い思いがにじんでくる。

 「原子力 明るい未来のエネルギー」の看板の撤去作業現場で、大沼さん夫妻が「撤去が復興? 過去は消せず」のボードを掲げて抗議する写真も掲載。町の歩みを隠すかのような看板撤去は本当の復興につながらない、次世代に本当のことを教訓として伝えるべきだ、という訴えだった。

 今年に入り、看板の文字パネルが福島県の「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)に展示される運びになった。「大沼さんら被災者の訴えが共感を広げて、展示へ道筋をつけたのだと思う」と豊田さん。

 今作は、2018年からこれまで4冊刊行した写真絵本「それでも『ふるさと』」シリーズの一環。事故で被災し避難生活を強いられた福島県の人々の表情と思いを伝えてきた。

 今作を含め計3冊は「あの日から10年」と題した。他の2冊「土に生かされた暮らしをつなぐ」「福島に生きる凜ちゃんの10年」は、それぞれ福島県飯舘村の農家と少女を取り上げ、2月までに順次刊行する。事故から5年を過ぎてから、甲状腺エコー検査の取材で福島県の小中学生たちが事故を忘れたり、知らなかったりする現実を知ったのが、写真絵本づくりのきっかけだった。

 豊田さんは、思いを語る。「福島第1原発事故から10年。世の中は新型コロナウイルス禍に振り回されて、福島の放射能被害のことを忘れ、さらには原発事故があったことすらも忘れ去ってしまいそうだ。忘れた時には、また、同じ過ちが繰り返されるのでないかと心配する。だから知ってほしい。原発事故で何が起こったのか、何が今も起こっているのか。次世代の子どもたちにも伝えてほしい」

 AB判、32ページ。各2千円(税別)。すべての漢字にルビを振った。学校などの図書館に置いて、読んでもらうのが願いだ。 (吉田昭一郎)

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