哲ちゃんに誘われて【光石研さん連載5】

連載:As time goes ばい!

 俳優田中哲司氏が、僕の所属する事務所に移籍してきて、もう20年くらいだろうか。

 当時事務所には同世代の俳優は所属しておらず、同じ映画に出演したのをきっかけに、僕らは仲良くなった。「光石さん、お酒呑(の)むんでしょ? 呑みに行きましょうよ!」「外じゃ呑まないんだよ。外で呑むと絡まれるでしょ?」「ハハハッ、そんな事しませんよ。美味(おい)しい居酒屋さん有るので!」

 ここからである。ここから僕の外呑みが始まった。哲ちゃんは、舞台界では有名な酒豪で、若い頃の武勇伝も多い人だった。酒好きなだけに本当に美味しいリーズナブルなお店を知っていた。そして友達も多い。哲ちゃんの計らいで、小林薫さん、岩松了さん、大森南朋さん、荒川良々さんなどなどと年に数回集う「薫会」が開催されるようになった。演技論などは皆無で、もっぱらヨモヤマ話に終始し、酔うと毎回同じ話しで大笑いする。

 会が始まったばかりの頃、「ほら光石、なんか好きなモノ頼めよ」と言った薫さんは、「んじゃ唐揚げに野菜炒め、あ、焼きそばもお願いします」と頼んだ僕に「アホか! 部活帰りの腹ペコ中学生かお前は! まずは、季節の小鉢とか旬のモノを聞いてゆっくりゆっくり呑むんやアホ!」

 なるほど、大人の呑み会ってそういうものなんだ! 初めにお腹(なか)に入れて呑むんじゃないんだ。薫さんは続ける。「ええか、最初のビールも喉を潤す程度や、そこから今日の料理に合わせておのおの好きな酒呑むんや」

 さすが四十数年一日と空けず呑み続けている強者だ。立ち飲みのカクウチから銀座のクラブまで知り尽くしている。それにしても舞台系俳優さんは酒好きが多い。やはり本番が夜だから朝もゆっくりになり、毎日呑んでいる。

 薫さん、哲ちゃん、皆さん、大人の世界を教えていただきありがとうございます! お陰様(かげさま)でほぼ毎日、ちびりちびりと晩酌を楽しむようになりました。

 でもまだ、なんかお腹に入れてからじゃないと呑めないけど(笑)。 (みついし・けん=俳優。挿絵は渋谷直角さん)

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