『幸福の黄色いハンカチ』健さん転機の一作、ずっこけ鉄矢が導く

フクオカ☆シネマペディア(23)

 われらが健さんこと、高倉健が、北海道の網走刑務所を出所したばかりの元炭鉱マンで、心ひそかに夕張の元妻への思いを募らせる男、島勇作を演じる「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」(1977年、山田洋次監督)。勇作は、欽也(武田鉄矢)と朱実(桃井かおり)の若いカップルとの車のを通じ、葛藤にとらわれた心を解き放つ。

 勇作は剛直で誠実だが、不器用で無口な男だ。来し方への後悔と、元妻の光枝(倍賞千恵子)への申し訳なさと恋慕、拒絶への恐れ…。仮に勇作の1人旅だったら元妻を思う出所男の渋くて暗い旅になったかもしれない。

 演じる武田鉄矢同様、欽也は博多出身。旅先の北海道で、失恋の傷心を抱える朱実と出会ったばかりだ。浜辺にいた勇作と何となく車の3人旅となるのだが、欽也は恋仲になりたくて朱実にモーションを繰り返す。じたばたと迫って、転んでずっこけては、博多弁で「あいたーっす」(痛い!)を連発する。

 元来、無口で同乗の恩義もある勇作だが、あきれはて黙ってばかりはいられない。宿泊先の旅館では欽也に迫られた朱実が大声で泣きだし大騒ぎだ。勇作もついに怒った。「おまえ、それでも九州の人間か」。同時に、思いむき出しの欽也は、ずっこけながら、勇作の閉じた心を開いていく。

 欽也はチンピラ風の男に絡まれる。勇作は難なく撃退する。若い2人はわけありげなタフガイに引かれていく。勇作は不作法だが純粋な2人をかわいくも思ったのだろう。警察の検問に絡んで2人は、勇作が出所したてだと知る。だが、去らない。よい聞き役になる。勇作は逮捕までの半生を車中で語りだす。

 勇作は飯塚(福岡県)の出身だ。炭鉱マンだったが、ゆえあって、夕張の炭鉱に流れてきた。小売店のレジ係の光枝を見初めて、晴れて結婚。光枝の妊娠を知って大喜びするのだが、光枝は流産し、勇作の人生は暗転していく。

 勇作は出所日、夕張の光枝あてに「もし今でも俺を待っててくれるんだったら、黄色いハンカチを家の前のさおにぶら下げておいてほしい」と書いて、はがきを出した。その打ち明け話を聞いたとたん、勇作をうるさがるところもあった欽也が「勇さん、行こうや、夕張」ときれいな真顔で語るのにはぐっときた。

 2人は勇作を導くように一路、車を走らせる。夕張の家に近づくと勇作はためらう。一度は引き返させる。家のそばに来ても顔を伏せてしまう。仁俠(にんきょう)のスーパーヒーローを演じ続けた健さんが、人間くさい姿を見せる。弱さも含む人間を演じる、健さん転機の一作だったか。

 夕張の炭住街が筑豊にあったそれと重なった。鉄矢は博多弁丸出しだし、健さんだって遠賀川の川筋の生まれ育ち。ロケ地は筑豊だったと言われても違和感がないかもしれない。

 数多くのハンカチがはためくラストは何度見ても心が揺さぶられる。あらゆる人生への励ましを感じる。 (吉田昭一郎)

※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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