SL「診る」90歳元国鉄マン、五感に刻んだミリ単位

 人は、その人を「メカニカルチーフドクター」と呼ぶ。旧産炭地として栄えた筑豊で、石炭を運んだ鉄道や車両を「産業遺産」と位置づけ、とりわけ、蒸気機関車(SL)の保存・修復に励む元国鉄マンがいると聞いた。日本の発展を象徴する一つの存在である、SLを支えてきたプロの技術を一目見ようと、現場を訪ねた。

復元中の「D51形」蒸気機関車を見つめ、「SLが走る姿は躍動感があっていいものでしたよ」と語る吉田大八さん

 福岡県直方市頓野のNPO法人「汽車」(江口一紀理事長)に着いた。同倶楽部は、「筑豊の産業遺産」の継承・PRに取り組む。敷地内には修復中のSL「D51形」や、「C12形」が並んでいた。

 そこで、その人、吉田大八さん(90)が出迎えてくれた。国鉄時代の青い整備服姿、身長は160センチと小柄。握手すると、手のひらは大きく、年齢の割には握力も強い。「若い頃、仕事をしていくためには、体力が必要だと、ハンマーを1日千回ぐらい振らされたこともありました」と話す。

給油口のふたは自宅の屋根の部材を使い、鎖もワイヤを曲げて自作した

 直方町(現・直方市)出身の吉田さんは、14歳で国鉄に入った。門司機関区で、SLとディーゼル車の検査や、整備に従事して、検査長も務めた。退職後、約40年間に及ぶ経験を請われた。同倶楽部のメカニカルチーフドクターとして招かれ、20年以上務める。

 吉田さんは、金ベラを持ってD51形の台車部分をのぞき込む。「本来は白色のペンキで丸く囲んであるんだけど」と、車体を削り始めた。再塗装された塗料をそぎ落としていくと、小さなくぼみが現れた。

部品がどのように組み合わさっているのかを、若いメンバーに教える

 くぼみは、車体の前後左右に四つある。このくぼみを基準にして、地面との高さを測ることで、車体の傾きが分かるのだ。誤差の許容範囲は「左右に5ミリ、前後に10ミリ以内ってところかな。この車両も少し傾いているなあ」

車体を調べる吉田さん。五感を研ぎ澄ましているようだ

 「見て、においをかいで、聞いて、分かる」。車両の隅々を確認していく吉田さんの視線は終始、鋭く、厳しかった。二度と走ることのないSLなのだが、「ブレーキや圧縮機といった部品は、現役時代と変わらず、動くようにしてあげたい」と、吉田さんは話す。「ミリ単位の安全点検」をするのに、現役車両も、引退車両も、区別はないのだろう。作業開始から8時間、こちらの方が圧倒されてばかりだった。 (軸丸雅訓、写真も)

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