母の介護、荒れた家…ヘルパー拒んだ父への「作戦」

復刻連載・親おもい?~ひとりで介護<4>

 〈この連載を企画してから約20人を取材しました。その中でよく耳にしたのが「同僚や友人と介護の話をしたことがない」という言葉。わが身にも当てはまります。せっかくなので、東京に住む大学時代の同級生にも話を聞いてみました。インターネットを利用した通話料無料の電話サービス、Skype(スカイプ)で連絡を取ったのですが、彼はこのサービスを、遠方で暮らす親の安否確認に活用していたのです〉

 同級生(31)の休日は、パソコンに電源を入れ、スカイプを使う準備から始まる。受話器のアイコンをクリック。待ち構えていたかのように、画面には母のうれしそうな顔が映し出される。顔色は悪くない。背後には見慣れた実家の居間が写る。荒れた様子はない。彼は「今週も問題なし」と胸をなで下ろすという。

 佐賀の実家で、66歳の父が脳卒中で倒れたのは今年初め。入院した父を見舞うために帰省した際、マイク内蔵のカメラを購入し、実家のパソコンでスカイプが使えるように設定した。60歳の母が在宅介護を始めてもうすぐ4カ月。週末はパソコンの画面越しに互いの顔を見ながら話すのが、彼の日課になっている。

 毎回、聞き役に徹する。「それが今できる介護の手伝いの形。愚痴でも何でも、とにかくたまっているものを全部はき出してくれたらと思って」

 無料だから、一日中つなぎっぱなしにすることもある。昼になればパソコンの前でそれぞれ食事を取る。まるで隣の部屋にいるような感覚で話している。「部屋を掃除しろって怒られたりして、どっちが見守っているのか分からん」と苦笑いする。

 〈取材を通じて「親だから何でも通じあえる」というものでもないと、再認識しました。例えばホームヘルパーを活用しようとした際、親がすんなりと受け入れてくれなかったという経験を数人から聞きました。子ども側の意見に耳を傾けてもらうには、どうすればいいか。ある女性は一つの「作戦」に打って出ました〉

 彼女(41)は福岡市内の会社で働いている。1年半前、母(68)が脳梗塞の後遺症で歩くのが不自由に。実家まで車で約3時間。休日には子どもを夫に任せて帰るが、毎週ではない。2歳下の弟も県外にいて頼りにできない。普段、母を介護するのは71歳の父。最初の半年間は食事の準備や入浴の介助など、全てひとりで担った。だんだん母以上に父が心配になった。

 「父の負担が減るし心強いはず」とヘルパーの利用を持ち掛けた。しかし、他人が家に入ると気疲れすると考えるのか、父は「自分でできる」の一点張り。帰るたびに家の中が荒れていて、父ひとりで対応するのは限界だと思えた。

 「考えたのは、誰の言葉になら耳を貸すかということでした」。真っ先に浮かんだのは、両親がかかりつけの医師だった。40代と若いが信頼しているらしく、帰省するたびに「あの先生がねぇ」と話題に上っていたのを思い出した。すぐに電話し、父にヘルパー利用を勧めてほしいとお願いした。

 大成功だった。数週間後に電話をしてみると、父は「介護保険を申請してヘルパーに来てもらうことにしたからな。そっちの方がいいから」。自分が思い付いたように話したのがおかしかった。今では訪問を楽しみにしているという。

 〈同じような状況で悩んでいた別の取材相手にこの「作戦」のことを伝えると、「早速、まねをしてみる」と笑顔を浮かべていました。離れて暮らしていても、親子は「つながっていられる」ことを再認識させられました〉

 ◆この記事は2011年5月15日付で、文中の年齢、肩書、名称などの情報は全て掲載当時のものです。

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 「親おもい?」は東日本大震災の年の連載企画です。あれから10年、子どもにとっての「親の重み」はどう変化したのか。連載を読み返して、考えてみたい。

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