具体策明示とメッセージで信頼回復を

 スポーツの根底には公平、信頼、相手への尊敬の念がある。森氏の発言、辞意を固めるまでの騒動は、その全てを否定し、揺るがすものだった。東京五輪開幕まで5カ月余。失った信頼を取り戻しながら新型コロナウイルス対策をはじめ、山積する課題に取り組むのは至難の業だ。

 東京五輪は、コロナ禍で1年延期を決めた昨春から完全に「政治問題」となってしまった。一方で際立った、補助金の不適切使用などスポーツ界のガバナンス(組織統治)と自浄能力の欠如、スポーツ界の自立を目指して日本体育協会(現日本スポーツ協会)から独立した日本オリンピック委員会(JOC)の存在感のなさ。自らの役割を果たしきれなかったスポーツ界は今こそ、力を結集しなければならない。

 「スポーツ界の努力も足りなかった。スポーツの価値やエネルギーの発信といった自分たちがすべきことを常に考え、やっていたのか」-。声の主は1984年のロサンゼルス五輪柔道金メダリストでJOCの山下泰裕会長。自身も泣き、スポーツ界が政治に屈して不参加を決めた80年のモスクワ五輪を振り返る企画の取材で聞いた。

 山下会長は今年1月の西日本新聞のインタビューに「開催することに価値がある」と強調。「前回のリオデジャネイロ、前々回のロンドンのような形でできるとは考えていない」と新たな五輪の姿を創造し、提示する決意を示した。さらに冷え込んだ開催機運の醸成は急務。組織委、JOCには国民がイメージできる現時点で可能な東京大会の姿、開催可否を判断する具体的な基準や時期を早急に発信してほしい。

 「『できない』じゃなく『どうやったらできるか』を」(体操の内村航平)や「東京五輪は国民の皆さまとアスリートが同じ思いでなければ成立しない」(陸上長距離女子の新谷仁美)といった選手の思いをくみ取ったメッセージも必要。コロナ禍で「不要不急」に分類されもしたスポーツの価値を取り戻すためにも立ち止まっている時間はない。 (手島基)

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