10年ぶりの陽光。「あれ、外ってこんな感じ?」

#生きづらさ抱えて 05――

 早春の柔らかい陽光ですら肌に刺さるようだった。「あれ、外ってこんな感じ?」。昨年の今ごろ、20代後半のユミエ=仮名、福岡県=は自宅を出て驚いた。引きこもりを経て10年ぶりのまともな外出。小学校時代の友達とごはんを食べる。「ボスがまた現れるかも…」。怖いけど、踏み出した。

 「死ね」「ブス」。机を覆う落書きを、消す気力もなく、休み時間は突っ伏して寝たふりをした。中学2年の春に始まったいじめ。「スクールカースト」の頂点に君臨していた女子が主導した。「援交しとる。男好き」。根も葉もないうわさも広がった。

 「ボス」と呼ばれるこの女子は教師の聞き取りに「いじめている認識はない」と否定。学校側は「一件落着」にした。いじめは続き、夜眠れなくなる。登校時は高いビルを見上げた。「飛び降りたら死ねるかな」

 両親を心配させるのは申し訳なくて、話せなかった。半年耐えて、もう限界。リストカットを始め、秋からは自室に引きこもった。

 動画投稿サイトユーチューブ」で、人気アニメ「クレヨンしんちゃん」を一日中見た。あるとき、テレビをつけると、ドラマでリアルないじめシーンが流れた。一瞬で気分が悪くなり、吐いて、泣いた。以来テレビは見ない。

中3から覚えられないほどの診断名

 中3から精神科に通う。発達障害やうつ病、不眠症…。覚えられないほどの診断名がつく。どうしても眠れぬ夜、大量に薬を飲むようになる。いまいましい記憶が飛ぶ感覚にすがった。

 ぐったりしているところを看護師の母親に見つかり、病院で胃を洗浄した。「死にたい」と「生きたい」が交互にきて、幾度も同じことをした。外出は親の車で行き来する病院だけ。時間の感覚も四季の巡りも分からなくなり、記憶もあいまいになった。

 「買い物行かない?」「大丈夫?」。励まし続けてくれる両親や兄のためにも「変わりたい」。調子がいいときはキッチンに立った。家族の「おいしい」がうれしい。会員制交流サイト(SNS)に料理を時々アップした。

 「ユミエちゃん?」「ごはんいこ」。SNSでつながった小学校時代の友達からメッセージが頻繁に届くようになる。あれから10年。気持ちが、外に向いた。

通院も薬もやめたいけど、まだ先かな

 「いただきま~す」。昨年末から、念願だった料理教室に通う。ほかの生徒と一緒に調理して試食まで。この日はエビのパスタ。2時間余りのレッスンはあっという間だ。歯の矯正も始める。合わせて百数十万円の費用は自分で稼いだ。

 「親に頼ってばっかりじゃいけない」と夜の世界で働き始めたのは昨秋。指名は「存在価値を確認するようなもの」。気が合う同僚もでき、リストカットはやめられた。ブスとなじられた顔は「自信を付けたいし、かわいくなりたい」から整形する。

 街中で「キャハハ」と甲高い女性の声を耳にすると、「ボスかも」とたじろぐ。何とか、ストロング系の缶酎ハイのがぶ飲みで抑えている。通院も薬もやめたいけど、まだ先かな。

 「変わったね」。家族は今も応援してくれる。1年前は想像もできなかった日常を送る。「フツーに笑えることに感動するし、外が楽しい」。今も苦しんでいる人たちに知ってほしい。

 将来は、料理を仕事にしたい。定番の厚底靴で、私なりの歩幅で進んでいく。 =おわり

(この連載は久保田かおり、一瀬圭司、鶴善行、コラージュは楢木健郎が担当しました)

 自己肯定感 内閣府の調査(2018年度、13~29歳対象)によると、「自分自身に満足している」という自己肯定感がある人は45・1%で、13年度の45・8%から微減した。サンプル数がより多い内閣府の別の調査(19年度、同)では、「今の自分自身に満足している」と回答したのは40・8%。13~14歳が51・5%と最も高く、25~29歳が38・2%で最も低かった。「今の自分が好きだ」、「自分は役に立たないと強く感じる」と答えたのは約半数に上る。7割が「今の自分を変えたいと思う」とした。

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