「スマホ操作できるマスク」デザインは"考える喜び"

シン・フクオカ人(22)

 地位や名誉、お金ではなく、探究心が生きていく原動力になることもある。

 福岡市出身のプロダクトデザイナー広川楽馬(31)は2020年12月、「これからのマスクを考える」をテーマにヤフー(東京)が開催したデザインコンペで、優秀賞を受賞した。

 マスクに振動や頭、あごの動きを検知する小さなセンサーを取り付け、スマートフォンと連動させる。スマホに手を触れずに、ジェスチャーだけで操作できるというアイデアだ。さらに、せきやくしゃみの振動をとらえ、頻度を分析して感染症対策に役立てることもできる。

 ハンズフリーのワイヤレスイヤホンで、頭の動きだけで操作する製品はある。しかし、「ジャイロマスク」と名付けたこの作品は、頭とあごの動きで操作するため、誤動作が減るという。

 「考えるのが好きなんで。いつの間にか徹夜することも多いけど、体力には自信があります」

コンペで優秀賞を受賞した「ジャイロマスク」の概念

    ◆    ◆

 高校では陸上部に所属し、400メートルの選手だった。全国高校総体(インターハイ)出場の経験もある。でも、子どもの頃から好きだったのは工作の授業だった。家でも暇があればブロック玩具で小さな街を作っていた。

 九州大学芸術工学部で工業設計を専攻した。今はゲームセンターのゲーム機を製作する「セガ」(東京)で働いている。

 最近担当したのはサッカーゲーム。本物のスタジアムを再現したデザインだけでなく、製品の大きさや素材のコストも考えながら、開発チームの調整役も担う。デザインを褒められるとうれしいが、ゲームはプレーして面白いかどうかが人気を左右する。その意味では黒子役だ。

 仕事に不満はない。任された仕事は「自分が社長になったつもり」で商品価値を考えるようにしている。でも会社では、「モデルチェンジしたい」「高級感を出したい」など、方向性や解決すべき課題が決まっていることが多い。だから、自分のアイデアを自由に生かせる場面は意外と少ない。

 大学では、空間をデザインするサークルに所属していた。照明や舞台美術、センサーなどを使った「怖くないお化け屋敷」を学園祭で作ったこともある。来場者が驚いたり、喜んだりする姿を見て、自分たちのアイデアが形になる楽しさを味わえた。

 「会社ではユーザーの声が直接届くことが少ないので、いまひとつ実感が湧かないのかも」

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 そんな思いを、大学時代の仲間2人に話した。どちらも福岡から上京した会社勤めのデザイナーで、自分と同じような感覚でいることが分かった。

 もっと自由にアイデアを形にしたい。会社は副業を認めている。自分が時間さえつくれば、大学時代のようにデザインコンペに挑戦できる。「またやろうよ」と話はまとまった。

 それから年に2、3回のペースでコンペに参加した。2018年には、東京ミッドタウン主催のコンペで最優秀賞を受賞した。

 テーマは「HUMAN」。作品は、人間が本能的に美しさを感じると言われている比率「黄金比」を利用した弁当箱だ。仕切りを何枚入れても、常に黄金比のスペースが生まれ、おかずの品数が多くてもそうでなくても、自然と美しく盛り付けられる。

 テーマから「人間の本能とは何か」を考えているうちに黄金比にたどり着き、身近な「弁当箱」と組み合わせた。そのアイデアとデザインの美しさが、審査員から称賛された。

2018年に東京ミッドタウンのコンペで最優秀賞を受賞した黄金比の弁当箱

 寝る間を惜しんで案を出し合った仲間2人と分かち合った喜びは、今でも忘れられない。職種は同じデザイナーでも、会社が違えば視点も異なる。だから、自由に意見を交わせる2人の存在は重要だ。

 「コンペはテーマが抽象的なので、問題を見つけるところから始まる。そこが会社の課題解決型とは違うところ。僕にとっては頭の体操です」

 これからも会社に拠点を置きながら、仲間と共に社会に役立つモノを創造していくつもりだ。

=文中敬称略(加茂川雅仁)

「黄金比」の弁当箱で最優秀賞を受賞した広川楽馬さん(右から2人目)と2人の仲間(両脇)

 

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