ヤッホー、コロナ逆手に伸び続けるワケ

東京ウオッチ

井手直行社長に聞く「極意」―       

 日本人のビールの趣向に変化が生まれている。一般的になじみ深いのが、大手ビールメーカーが量産するラガービールで、すっきりとした喉ごしが広く愛されている。そこに最近は、個性的な味や香り、色が楽しめるクラフトビールの存在感が徐々に増している。クラフトビールメーカーと呼ばれる小規模な醸造所が全国各地に点在しており、そのトップとして業界をけん引するのが、長野県軽井沢町のヤッホーブルーイングだ。かんきつ系の香りとモルトの甘みが人気の「よなよなエール」などの商品で知られ、新型コロナウイルス禍の「家飲み需要」をしっかりつかんで販売を大きく伸ばした。飲食店の営業時間短縮や外出自粛などで大手の売り上げが減少する中でも好調に業績を伸ばした裏には、ビールの味と同じように個性的な組織運営や営業スタイルがあった。福岡県久留米市出身の井手直行社長に、事業戦略の極意などを聞いた。(聞き手は石田剛)

失われた「外」の楽しみに代わるぜいたく

 ―コロナ禍は、ヤッホーブルーイングの事業にどのような影響を与えたか。

 「大きく環境が変わった。観光客が激減した地元の軽井沢での販売や、東京都内に8店ある公式ビアレストラン、業務用に卸す飲食店向けの売り上げは大幅にダウンした。ファンの獲得のために重要だった交流イベントも、リアルでの開催は中止した。一方で、コンビニエンスストアやスーパー、通信販売の売り上げが伸びてきた。そこで、いち早く手を打って、地元や飲食店向けの商品の生産を縮小し、コンビニや通販向けの人員を強化した。結果的に、昨春から前年同月比で1.5~2倍の販売増が続き、大幅な増収になった」

 ―大手もクラフト専業もビールメーカーが軒並み苦戦している中、それほど販売を伸ばせたのは、なぜなのか。

 「外出自粛で行や外食の楽しみが失われた。代わりに、家庭でちょっとしたぜいたくを楽しむ、今まで飲んでいなかったお酒を楽しむ、という需要が増えた。その結果、個性的で非日常を味わえるクラフトビールが選ばれるようになった。お客さまの声にも、こうした傾向が表れている。全国のコンビニやスーパーで販売しているクラフトビールはほとんどないので、当社の商品が需要の受け皿になったと思う」

「てんちょ」のニックネームで社員やクラフトビールファンに親しまれている井手直行社長​​​

 「販売データの変化をつかんで、その波を生かそうと、積極的に動いた効果もあった。コロナ禍で営業先に直接訪問できないのを逆手に取り、取引のない問屋やスーパーを調べて、片っ端から手紙やメールを出していった。今までの営業は訪問するのが当たり前だったので、人手の少ない当社は営業先が限られていた。しかし、訪問しない営業で物理的な制約がなくなった。クラフトビールを全く知らない人に向けた提案資料を新たに用意して、繰り返し送り続けていると、一定の割合で反応が出てくる。実際に商談も毎月何件か決まり、販路が増えていった」

 ―営業先が増えると、結局は人手が必要になることにならないか。

 「人手は全く足りていない。営業だけでなく、マーケティングやファン向けのイベント企画に必要な人員も増やしたい。現在、150人くらいが働いているが、ずっと中途採用の募集を続けている。既に30人ほどの採用が決まっているが、今も採用活動を続けている」

 井手社長が触れたファンの交流イベントは、ヤッホーブルーイングの成長を支えてきた重要な企画だ。2010年にビールの飲み比べやクイズ大会などを楽しむイベントを東京で開いたのが評判を呼んだ。その後、年々規模が拡大していき、1回で最大5千人が集まるようになった。コロナ禍に見舞われた20年はオンライン開催への変更を余儀なくされたが、その経験を生かして新たなステップに踏み出す方針だという。

SNS駆使、オンラインで地方とつながる

 ―コロナの影響で、ファン向けのイベントの計画を、どう見直したのか。

 「リアルに集まれないので、オンラインに切り替えた。昨年5、6月にファン同士を結んで、ビールを飲みながらトークや音楽を楽しむ『おうち超宴』というイベントを2回開き、延べ1万人ほどが参加した。12月にも2回企画して約3千人が参加した。会員制交流サイト(SNS)を駆使して積極的に情報発信した効果も大きかった。やってみて分かったのは、オンラインだと参加者の層が広がることだ」

ヤッホーブルーイングが開いた2019年のファンイベント。コロナ収束後に再開を目指している(同社提供)

 ―参加者の層は、どう変わったか。

 「これまでは、首都圏や関西圏のビール愛好家が中心だった。オンラインだと地方の方や、SNSで友達が『いいね』と反応していたのを見て参加した方など、今まで接点がなかった人とつながりができた。コロナ禍が落ち着いたらリアルのイベントは復活するが、オンラインも継続していく」

 ―今後のオンラインイベントの内容は。

 「まだ計画中だが、開催頻度はもっと増やしていく。飲み会イベントだけではなく、醸造所の様子を紹介する見学ツアーや講習会などの企画も検討している。感動したのは、ファンの方たちが自主的にイベントを開いてくれたことだ。私たちもサポートしたい」

看板商品の「よなよなエール」を手にする井手直行社長

 クラフトビールの存在感は増しているものの、日本のビール市場に占めるシェアは、わずか1~2%とされる。井手社長はこれまで、10~15%のシェアがある米国の市場を例に挙げ、「日本は今後も市場が広がる余地がある」と主張してきた。コロナ禍で苦境に陥るクラフトビールメーカーもある中、業界の浮揚に向けた決意を示す。

「業界全体を盛り上げる」他社との連携探る

 ―オンラインイベントでは地方からの参加も多かったそうだが、地方のクラフトビール市場については、どう見ているか。

 「九州も含めた地方の市場は、首都圏に比べるとまだ温度差があると感じているが、だいぶ変わってきた。コロナ禍は大変だが、巣ごもり需要によって、クラフトビールが地方にも広がるチャンスがあると思っている。1月には新たに大阪営業所を開設した。次は福岡と名古屋への営業拠点開設を目指しており、その後も全国の拠点都市に営業拠点を増やしたい」

ヤッホーが福岡市に営業拠点開設を検討していることを伝える​​​​​1月の西日本新聞紙面

 ―クラフトビール業界全体は、どのような状況にあるか。

 「飲食店向けや自社で手掛ける飲食事業での販売が中心のクラフトビールメーカーが大打撃を受けており、このままでは倒産や事業撤退が相次ぐのではないかと懸念している。クラフトビール業界には、いくつかの団体があるが、まとまった動きができていない。業界全体を盛り上げるために、他社と連携ができないか動いているところだ」

 ―どういった分野で連携できると考えているか。

 「インターネット通販のノウハウを持たない事業者や、飲食事業でテークアウトに対応するノウハウを持たない事業者も多い。こうした事業者とつながりを深めれば、製造技術、マーケティング、販売などでの知見の共有や、国に対する働き掛けなどで、前に進めるのではないかと思う」

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